この溺愛にはワケがある!?
秋バラが見頃を迎えた日曜日は多くの観光客でいっぱいだ。
美織は大きなバックパックと共に車を降りた。
だが背負おうとすると、バックパックは途端に重量がなくなり美織の手から離れてしまう。

「あ、いいよ、私持てるから!」

「ダメ。俺が持つ。こんな重いの、みおに持たせられない」

「え、でも。悪いし……」

「いいから!黙って任せときなさい」

キリリとした表情の隆政に、美織は少しだけドキッとした。
そして、改めてこういうとこがモテる一因だなと納得する。

「じゃ、お願いします………」

「はいはい。任せといて」

そう笑うと、美織の背中をスッと押して歩き出す。

(何から何までスマートだわね……ポンコツの癖に!)

と、絶対叶わない悔しさから、美織は悪態をつくのであった。

隆政は美織を伴い、まず事務所に向かった。
そこにいる知り合いに会うためだ。
バラ園の主は隆政の小、中学の同級生らしく、高校を卒業してからすぐ海外のガーデニングを学ぶため渡英した。
そして3年前、ここにバラ園を開業したのだ。

「よぉ、理一。久しぶり」

「……あ、隆政!?どうしたんだ!?え、幻??」

大きな体格の日に焼けた青年は、驚いた顔で隆政を見ていた。

「幻……って、どういう意味だよ」

「そのままの意味。花になんか興味ねーだろうが………あ、ああ、そうかそうか。そういうことな」

理一と呼ばれた青年は、ひょいと隆政の後ろを見ると納得したように頷いた。

「どうも、こんにちは。境理一です。ここのオーナーやってます」

「こんにちは、加藤美織です」

「勝手に挨拶するな、話しかけるな、近寄るな」

理一の差し出した手をバシッと叩き落としながら、隆政は二人の間に割り込んだ。

「……何だよ、お前、そんなだったか?オレの知ってる黒田隆政はもっとこう……」

「うるさいな、もういいだろう。少し挨拶に寄っただけだからな。さ、みお、行こう」

と、美織の手をぐいぐい引いた。

「待て、案内してやる。バラの詳しい説明もしてやるぞ」

「断る!邪魔されたくない」

「お前はそうでも、加藤さんはそう思わないかも。どう?」

理一は美織に尋ねた。

「せっかく来たんだから、バラの説明聞きたいです。あと、いい肥料とかあったら教えてもらいたいし」

乗り気でない隆政の顔色を伺いながら、美織は理一にそう告げた。

「な?ほら、一緒にいこーぜ!」

「………みおが言うなら仕方ない。だが、1メートル以内に近付くのを禁止する」

「お父さんかよ!ったく、余裕ねーなぁ。そんなんじゃ嫌われるぞ」

「余計なお世話だ」

隆政と理一は幼なじみらしく、言いたいことを言い合ってとても息が合っている。
そんな二人を見て美織は眩しそうに目を細めた。
< 25 / 173 >

この作品をシェア

pagetop