この溺愛にはワケがある!?
隆政は次の言葉を待っている。

「私の両親も事故死なんです。だからどうだというわけじゃないけど、さっきみたいになってしまうの、わかる気がする。私だって、両親が死んだときああいう顔をしてた。でも……」

美織は当時のことを思い出した。
今日の隆政と同じような顔をしたとき、美織を助けてくれたのは、動けなかった美織をそっと抱き締めてくれたのは。
七重だった。
と。

「私はおばあちゃんに助けられた。おばあちゃんに抱き締められて思いっきり泣いて……悲しみを半分ずつ背負ったの」

隆政は暫く美織を見つめていた。
瞬きもせずに。
そして、目を逸らしたと思ったら次に真剣な顔になって言った。

「俺もそうされたら治るのか?」

「わからない……」

美織は首を振った。
その次の瞬間、ほんの思いつきのように隆政が呟いた。

「………腹が空いた……」

「は?何ですか?突然……」

「弁当、食べたい」

「な、何いってるんですか!?さっきお弁当を見てあんなことになったでしょ!?ダメですよ!」

「大丈夫そうな気がする……試してみたいんだ」

「気がする……って……そんな……」

あれほどの目にあったのに、能天気に話す隆政に正直腹が立ったが、彼は彼できっとどうにかして症状を克服したいのだ。
そう思うと協力してあげたい気もしてくる。

「……じゃあ、このバックパックの中にお弁当を置いたままで、見えないようにして食べたら?」

「そうだな。やってみてもいいかな?」

美織は頷くと、バックパックのジッパーを下ろして中を覗き込む。
手探りでお弁当の蓋を外し、紙のお皿におにぎりと卵焼き、唐揚げときんぴらを盛り付けた。
そしてそれを恐る恐る隆政に見せる。

「大丈夫そう?」

「ああ………」

少しひきつったような顔になるが、なんとか必死で耐えている。
そんな姿を見て美織の胸は痛み、その瞬間思わず手が伸びた。
美織の手は、隆政の頬に触れている。
その手に驚いて目を見開いた隆政は、勢いで美織の手にあった皿を受け取った。

「みおの手に集中してるとかなり気が紛れる。そのままでいて」

「ちょっと……これかなり恥ずかしいんだけど……」

休日のしかも昼過ぎのバラ園の混み具合を舐めてはいけない。
このベンチの前も沢山の人が通り過ぎ、二人をチラッと横目で見ていくのだ。

「恥ずかしさに頬を染めるみおをおかずに、弁当を食うって最高だよ」

そうやって変態じみたことを言う隆政は、いつもの調子がもどっているかのようだ。

「食べれたのはいいけど、いつまでこの状態!?」

「俺が食い終わるまで」

爽やかに笑う隆政に、恨みがましい目を向けて、美織は激しく鳴り響く腹の虫と闘い続けた。

< 29 / 173 >

この作品をシェア

pagetop