この溺愛にはワケがある!?
黒田と名乗った男を仏間に案内し、美織はお茶を入れに台所に向かう。
台所から廊下を挟んだ仏間にいる男を注意深く見つめていた美織は、その挙動に息を飲んだ。
彼は遺影にそっと手を伸ばし、ほんの少し嗚咽を漏らしたのだ。
今までそんな客を見たことがなかった美織はびっくりして手を止めた。
黒田行政という男は、七重とどんな関係にあったのだろう。
そんないろんな想像が美織の頭を埋め尽くしていった。
行政は暫くして、しっかりと前を向くと線香をあげ両手をゆっくりと合わせる。
それと同時に止まっていた美織の手も動き、少し飲み頃を逃した苦味のあるお茶がお湯のみに注がれることになった。
「黒田さん。本日は祖母のためにありがとうございます」
美織は正座しお茶を脇に置くと、深々と頭を下げた。
それに反応するように行政も同じように頭を下げる。
「お礼なんて……本当はもう少し早く……いえ、生きているうちに会いたかったんです。それは叶いませんでしたが……この手紙を私が見たのはつい一週間前のことで」
「手紙?」
お茶を勧めながら、美織が言った。
「はい。実は半年前には届いていたものを、家の者が失念し私に届け忘れていたのです……これです」
「これは、祖母の筆跡ですね……」
懐かしい文字に美織の心は踊った。
「なんと書かれていたのかお伺いしても?」
「どうぞ、御覧になって下さい」
行政の言葉に、美織は直ぐ様飛び付いて手紙を開いた。
そこには、暖かい七重の字、七重の筆跡で美織のことを頼むと何度も何度も念を押して書かれている。
恐らく、死期を察して筆を取り、美織にバレないように看護師さんに頼んだのだろう。
心配させない為に、そして、美織の為に………。
「………ありがとうございます。祖母が私のことを気にかけてくれていたのを知れて良かった」
「七重さんは本当に美織さんのことを大切にされていたようだ」
微笑む行政にそう言われ、美織は少し照れ臭そうに笑った。
「だから私も……美織さん、貴女の幸せに協力させてもらいたい」
「そんな……黒田さん、ご心配には及びません。私は十分幸せです」
「そうかもしれませんが……あの、よければ一度、うちの孫と会ってみませんか?」
「………………………………はぁ?」
何がどうなってこうなったのか全くわからず、美織は失礼も省みず行政に問いかけた。
「……ああ、突然過ぎましたね。実は私、小さい造船会社を営んでおりまして、ゆくゆくは孫に会社を譲ろうと思っています。そこで、美織さんに孫の隆政(たかまさ)の嫁になって貰おうかと……」
「……………申し訳ありませんが、お断りします」
「即答ですね……身内が言うのもなんですが、隆政は結構な男前で今年で27……」
「いえ、そういうことではありません」
取りつく島もない美織の様子に、暫しの沈黙の後、これでどうだ!と言わんばかりに行政が言った。
「私も七重さんとの約束があります。美織さんの幸せを託されたんです!七重さんの為に、どうか一度だけでも隆政と会ってくれませんか?あいつも楽しみにしているんです!」
いや、それは大嘘だろう。
と、美織は思った。
かなりの男前の金持ちが、後ろ楯も何もない、地味な女に会いたいとは思うまい。
しかも、27歳のそんな優良物件が女の一人もいないわけがない。
ーーだが。
美織は七重が行政に宛てた手紙を見ている。
手紙には七重がどれほど行政を信頼しているかがわかる、そんな内容だったのだ。
そして、行政も……美織にそんな大嘘を吐くくらい七重のことを想っていたのではないだろうか。
そんなに七重のことを想ってくれている人の話を無下には出来ないし、七重の自分を想う心にも答えたい。
悩んだ美織は行政に言った。
「………では、一度だけお会いするということで」
まぁ、一応会えば顔は立つしその場で断ってもいいか、とその時の美織は楽観的に考えていたのだった。
台所から廊下を挟んだ仏間にいる男を注意深く見つめていた美織は、その挙動に息を飲んだ。
彼は遺影にそっと手を伸ばし、ほんの少し嗚咽を漏らしたのだ。
今までそんな客を見たことがなかった美織はびっくりして手を止めた。
黒田行政という男は、七重とどんな関係にあったのだろう。
そんないろんな想像が美織の頭を埋め尽くしていった。
行政は暫くして、しっかりと前を向くと線香をあげ両手をゆっくりと合わせる。
それと同時に止まっていた美織の手も動き、少し飲み頃を逃した苦味のあるお茶がお湯のみに注がれることになった。
「黒田さん。本日は祖母のためにありがとうございます」
美織は正座しお茶を脇に置くと、深々と頭を下げた。
それに反応するように行政も同じように頭を下げる。
「お礼なんて……本当はもう少し早く……いえ、生きているうちに会いたかったんです。それは叶いませんでしたが……この手紙を私が見たのはつい一週間前のことで」
「手紙?」
お茶を勧めながら、美織が言った。
「はい。実は半年前には届いていたものを、家の者が失念し私に届け忘れていたのです……これです」
「これは、祖母の筆跡ですね……」
懐かしい文字に美織の心は踊った。
「なんと書かれていたのかお伺いしても?」
「どうぞ、御覧になって下さい」
行政の言葉に、美織は直ぐ様飛び付いて手紙を開いた。
そこには、暖かい七重の字、七重の筆跡で美織のことを頼むと何度も何度も念を押して書かれている。
恐らく、死期を察して筆を取り、美織にバレないように看護師さんに頼んだのだろう。
心配させない為に、そして、美織の為に………。
「………ありがとうございます。祖母が私のことを気にかけてくれていたのを知れて良かった」
「七重さんは本当に美織さんのことを大切にされていたようだ」
微笑む行政にそう言われ、美織は少し照れ臭そうに笑った。
「だから私も……美織さん、貴女の幸せに協力させてもらいたい」
「そんな……黒田さん、ご心配には及びません。私は十分幸せです」
「そうかもしれませんが……あの、よければ一度、うちの孫と会ってみませんか?」
「………………………………はぁ?」
何がどうなってこうなったのか全くわからず、美織は失礼も省みず行政に問いかけた。
「……ああ、突然過ぎましたね。実は私、小さい造船会社を営んでおりまして、ゆくゆくは孫に会社を譲ろうと思っています。そこで、美織さんに孫の隆政(たかまさ)の嫁になって貰おうかと……」
「……………申し訳ありませんが、お断りします」
「即答ですね……身内が言うのもなんですが、隆政は結構な男前で今年で27……」
「いえ、そういうことではありません」
取りつく島もない美織の様子に、暫しの沈黙の後、これでどうだ!と言わんばかりに行政が言った。
「私も七重さんとの約束があります。美織さんの幸せを託されたんです!七重さんの為に、どうか一度だけでも隆政と会ってくれませんか?あいつも楽しみにしているんです!」
いや、それは大嘘だろう。
と、美織は思った。
かなりの男前の金持ちが、後ろ楯も何もない、地味な女に会いたいとは思うまい。
しかも、27歳のそんな優良物件が女の一人もいないわけがない。
ーーだが。
美織は七重が行政に宛てた手紙を見ている。
手紙には七重がどれほど行政を信頼しているかがわかる、そんな内容だったのだ。
そして、行政も……美織にそんな大嘘を吐くくらい七重のことを想っていたのではないだろうか。
そんなに七重のことを想ってくれている人の話を無下には出来ないし、七重の自分を想う心にも答えたい。
悩んだ美織は行政に言った。
「………では、一度だけお会いするということで」
まぁ、一応会えば顔は立つしその場で断ってもいいか、とその時の美織は楽観的に考えていたのだった。