この溺愛にはワケがある!?
6人が座れる広い座敷で、美織と隆政は向かい合って座る。
水着のお姉さんのビール広告のポスターとか、少し茶色くなった手書きのお品書きを眺めながら美織はふと隆政に尋ねた。

「あの……凄くフレンドリーよね?」

「え?あー、うん。同級生だからな」

「えーと、じゃあ境さんとかと一緒?」

「ああ。理一とアイツ……大将の洋二と嫁の梨沙、中学が一緒なんだよ」

(なるほど、そう言えばノリが境さんと似ているかもしれない。ていうか、あの2人夫婦だったんだ)

美織はもし梨沙をめぐる洋二と隆政の三角関係があったのなら、見てみたかったと口元が緩んだ。

「何か変な想像をしているな?」

(無駄に鋭いな、この男)

「残念ながらそういうことにはなったことがない」

(……本当に鋭いな!この男!!)

「どうせ、梨沙を巡っての三角関係を期待したんだろう?バカバカしい」

(バカバカしくて悪かったわね!!)

美織が食って掛かろうとしたとき、「失礼しまーす」という大きな声と共に座敷の扉が開いた。

「お待たせ、何にする?タカちゃんは車だよね、じゃあビールは無しね」

「そうだな、みおはビール飲むか?」

「あー、じゃあ生中を……」

(とり皮にはやっぱりビールでしょう!!)

「はい!生中ね!あとは?」

「とり皮を鉄板でっ!!あとモモとねぎまとつくねと砂肝を!!あ、すみません、隆政さんは?」

必死な美織を見て、隆政の顔はもう大胆に崩れまくっている。
普段笑うときとはまた別の、鎧が外れたその表情に美織は不覚にも少しときめいてしまった。

「俺も……とり皮鉄板とねぎま……」

笑いを堪えて俯きながら、隆政は肩を震わせて言った。

「ふふ、タカちゃんがそんな風に笑ってるの久しぶりに見たわ。彼女さんのおかげだね。みおさん?だったかな?宜しく頼むね!」

と梨沙はバンバンと美織の肩を強く叩いた。

「あ、加藤美織です。それでですね、彼女ではない……ですよ?」

「うそ!?え、そうなの??」

美織の言葉に梨沙は目を丸くして隆政を見る。
漸く笑いの波が過ぎ去った隆政は、説明を求めるように視線を送る梨沙に淡々と言った。

「今は、だ。そうなって欲しいとは思ってる」

「ほう!いいねぇ!なんともまぁ、謙虚になったじゃないの?まぁね、タカちゃんは今までの行いを改めたほうがいいわよ。この間まで付き合ってた女なんて史上最悪……」

「おい!!」

慌てて口を挟む隆政に、梨沙は少し怖い顔をして言った。

「あのさぁ、彼女になって欲しいって思うんだったら変に隠しちゃ駄目だよ!!大切な人には誠実に伝えなきゃ!言わない方がいいこともあるなんて、あたしは嘘だと思うよ!」

ね!と梨沙は美織に笑いかける。

(ね!と言われても困る。そんな史上最悪な元カノの話をされたところで、どんな顔をすればいいんだか……まぁ、黒田家が私に絡んでくる理由は知りたいけど)

美織は複雑な顔をしながら、梨沙に愛想笑いをした。
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