この溺愛にはワケがある!?
「そういった事情があったのなら、言ってくれれば良かったのに」

「言えばどうにかなったのか?みおは、俺との結婚を承諾したか?」

(それは……ないわ)

そう、その答えは決まっている。
美織の顔を見て隆政はその真意を理解したようだ。

「……黒田さん……行政さんも何でそんな条件を……いとこ同士で揉めることになりかねないのに」

(それに家督相続問題に私を巻き込んでもらいたくないわ。大体何の関係もないじゃない!)

と思い、ふと初めて行政と会った時のことを思い出した。
七重の遺影を切なそうに撫でるその姿を………。

「行政さんは……うちの祖母と何かあったのかな?」

隆政が知っているかどうかはわからない。
だが美織は口にせずにはいられなかった。

「多分な……みおのおばあさん、七重さんのことでうちの婆さんと爺さんが言い争っているのを聞いたよ。何故か爺さんが酷く怒っていた。その直後だったからな、この話が出たのは……」

(やはり。行政さんは……おばあちゃんと《何か》があったんだ……)

だとすれば美織がやるべきことは決まっている。
このバカげた家督争いを終わらせることが出来るのは美織だけなのだ。

「わかりました。私から行政さんに止めてもらうように言います。それで隆政さんも成政さんも、もうこの事に振り回されることはなくなるし、私を口説く必要もないでしょ?」

当然感謝されるものと思っていた。
美織もこれで雲の上の男達の非日常に付き合わされることはない。
穏やかで変化のない生活がまたやって来るのだ。
そう思っていたのだが……。

「こうなるのが嫌だったんだ!!」

隆政が突然声を荒らげた。
美織はビクッと体を震わせて目を丸くする。
こんな隆政を見たのは出会って初めてのことだ。
何がそんなに気にくわなかったのだろう、と考えてみたがちっともわからない。

「た、隆政さん?」

「話せば……みおは絶対そう言うと思ったんだ!でも、言わないのも卑怯だと思った……訳もわからず振り回されるのは気持ちのいいものじゃないからな……みおは……俺が……社長になりたいから一生懸命君を口説いてると思うだろ?そう思われてしまうから、話したくなかった!」

隆政がテーブルをドンと叩くとウーロン茶のグラスが揺れた。
それに反応して中の氷もカラン……と一つ切なそうに揺れた。
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