この溺愛にはワケがある!?
(埒が開かない!!とりあえず座って何か彼女の情報を得よう)

そう思い仕方なく3番窓口に座った。
だが男に聞けば聞くほど自分が不審がられていくのがわかる。

(きっと、ストーカーだと思われてるぞ……まぁ、実際そうかもしれないが……とにかく警備員を呼ばれる前に退散しなくては)

と早々に話を切り上げてその場を立ち去ることにした。
だが不審がられた甲斐あって必要な情報は得られた。

(もう少し……嫌がられても食い下がってみよう。やっと、興味が持てる人に出会えたんだ。この機会を逃したくない。もっとこの先を知りたい)

隆政は美織を待伏せすることにした。
彼女が怒っているのは十分知っているが、そうでもしなければ会ってはもらえない。
八方塞がりの隆政にはもうそれしか残されていなかった。
定時になるまで市役所の駐車場で時間を潰すと頃合いを見て裏口に回る。
職員が裏口を使うことはなんとなくわかっていた。
普通の企業とは違うのだ、市民が使う表玄関からはあまり出入りしないだろうと予想したからだ。

17時半を過ぎた頃、ベージュのコートに濃いブラウンのストールを巻いた美織が裏口から出てくる。
それを確認して隆政はゆっくりと距離を詰めた。
その姿を他の人が見ていれば不審者として通報されたかもしれない。
それほどに隆政は必死だった。

意を決して声をかけると、美織は一度立ち止まり暫く動かなかった。
完全に不審者扱いされたのか、それとも、隆政だと知って振り向くのを躊躇ったのか?
どちらかはわからなかった。
だが程なくゆっくりと振り返り、やはり心から嫌そうな顔をした。

「………何か御用ですか?」

冷たい声に少し心が折れかけた。
だが、そんなことで負けられない。
隆政は話を続けた。

「……まぁいい。ここじゃなんだから、何処かで話そう」

「待って下さい。何の話をするんです?昨日全て終わっていると思いますが」

「終わってない。昨日は……その……俺も先走ったというか……」

ここで、意外にも美織は表情を緩めた。
隆政はその一瞬の美織の表情を見て、何故か恥ずかしくなり目を伏せた。

「…………では、そこの喫茶店でどうですか?」

続いて予期しなかった言葉を聞き、隆政は舞い上がった。

(彼女が話を聞いてくれる!!この機会は絶対に逃せない!!)

「ああ、そこで構わない。すまないな………」

どうして彼女が態度を軟化させたのかはわからない。
だが隆政はこのチャンスに賭けた。
そして執拗に食い下がり、やっとの思いで美織の連絡先を手に入れることに成功した。
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