この溺愛にはワケがある!?

黒田隆政の心情

それから隆政は、気持ちが伝わるようにいろいろ工夫をして、メッセージをこまめに送った。
人生で、これほど人にメッセージを送ったことはない。
なんだかむず痒くなるような可愛い画像も、それを見て美織が微笑んでくれるのを想像して送った。
そんな自分に呆れもしたが、彼女の笑顔を引き出せることの方が嬉しかった。
連絡先を交換するにあたって、美織との間にはいくつかの約束事もあったが、それを守ることは苦にならない。
それよりも美織と繋がれることの方がはるかに重要だったのだ。
出張土産を口実にデート(美織はそう思ってはいないかもしれないが)をすることになった時は、遠足前の子供のように嬉しくて眠れなかった。
マーライオンの件は少しやり過ぎた感も否めないが、美織が笑い飛ばしてくれることが、隆政を幸せな気持ちにさせるのだ。

(もっと彼女の……みおの笑顔が見たい。俺がその笑顔を作りたい。そして、その笑顔を独り占めしたい)

欲求はだんだんエスカレートしていく。
一つ叶えば、その次へ。
そうやってこの気持ちも次へ向かうのかと思うと、隆政は生まれて初めて自分が成長しているということに気付いた。
両親の事故によって、止まってしまった心の時計が動き出す。
言うなればそんな感覚だ。

そのことを一番実感したのは、バラ園での出来事。
隆政には事故で負った心の傷がある。
それは、たまに出てきては亡霊のように冷たい手で隆政の首を締め付けた。
引き金は家族で食べるお弁当。
その幸せな記憶と、悲しい記憶はセットになっている。
美織の作ったお弁当でも、やはり、事故のトラウマを引き起こすことになった。
そして、迷惑をかけ……心配させた。
隆政はそんな情けない姿を誰にも見せないように、注意しながら生きてきた筈だった。
それなのに、一番見られたくない人に見られてしまうことになるなんて思いもしなかった。

もともと何とも思われてない上に、こんな病気まで……。
もう駄目だ、これで彼女には完全に嫌われる、と思った。
だが、結果は全く予想しないことになる。

美織は自分が悪いといい、更に隆政は優しいと言ったのだ。
そして自分も事故で両親を失い、少なからずトラウマを持っていたことを語った。
事故で両親を失った、ということは見合いの前、行政に聞いて知っている。
その事も実は隆政が美織に興味を持った一因でもあった。
それから美織は、自分のトラウマを取り去った七重の話をした。
それを聞いて隆政は、自分も同じように美織に抱き締められたいと真剣に思ったのだ。
トラウマが治るかどうかなんて、問題じゃなかった。
ただ、美織に触れたいと思っただけだ。
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