この溺愛にはワケがある!?

愛されたいと、思ってる

「え、そうじゃないんですか?社長になりたいから私を………」

美織の質問に隆政は横に首を振った。

「最初はな……そういうつもりもあった。きっと、みおも俺のことを好きになると思っていたし……好かれる自信があった」

自信家なのは知っている。
と、美織は心の中で頷いた。

「だが、事実は予想と違っていた。俺に全く興味がない君に……俺は興味を持った。途中社長がどうのとかは頭から消えていたよ……そして、君への興味は好意になり、今は……すごく……なんと言うか……」

「なんと言うか??」

自分の気持ちに当てはまる適切な言葉を探して、隆政はこめかみを軽く押さえる。
暫しの沈黙が二人を包む。
そしてまた、ウーロン茶の氷がカランと音を立て、それを合図のように隆政は言った。

「好きなんだと思う……とても」

「は…………」

思いもよらない告白に、美織の手からねぎまの串が滑り落ちた。
隆政が見せる美織への甘い言葉も態度も、社長になりたいという理由だけならば十分理解出来る。
実際その理由の方がはるかに現実的で、美織のことを好きだという方がファンタジーだ。
美織がそう思うのは、誰よりも自分のことを良く知っていたから。
お勉強が出来るだけで、特に秀でた所もなく、普通のどこにでもいる地味な女。
日本有数の企業の副社長で、見目麗しい男が愛を囁くには些か役不足というものだ。

「じ、冗談はやめてよ。あはっ、そんな真面目に何言ってるの?私達、友達じゃないの?」

「それは今日で終わりにしたい」

隆政は言い切った。
さっきはもごもごと必死で言葉を探していたのに、その言葉はやけにハッキリと発音した。

(友達は今日で終わり?わからない、隆政さんの真意が理解出来ない……)

混乱していることを悟らせないように、美織は黙って前を向いた。
その間にも隆政の視線は熱く抉るように美織を捉えている。
形のよい唇が動き始めて、伸びやかな声が耳に届くまで、見える世界はスローモーションで動いていた。
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