この溺愛にはワケがある!?
「まぁ、そうだと思いましたよ」

と寧々は言い、

「いいんじゃない?金持ちだし」

と芳子は言った。
そして二人とも、びっくりするくらい何も美織に尋ねなかった。
同期入社の他課の子が、どこからか聞き付けてやって来たりしたがそれ以外は静かなものだ。
お陰で美織は普段と全く変わりない生活を送ることが出来ている。
インテリヤクザもあれから見かけてはいない。
隆政の方が何とかしておく、と言っていたからその話は纏まったのだろう。
美織も隆政のスマホから行政に連絡を取った。
そして付き合うことになったからということを報告し、自分を家督相続の揉め事に巻き込んだことを一喝した。
最初朗らかだった行政の声は次第に沈み、最後にはほとんど聞こえくなってしまった。
行政は暫く元気がなかったそうだが「みおが爺さんと食事したいって言ってる」と隆政が告げると、何故だか少し復活したらしい。

「玉の輿ですし?働かなくても生きられますし?」

寧々の茶化す声に、美織は考え事から現実に引き戻された。

「何言ってるの?結婚するなんてまだ……」

「え?しないの?」

クールな主婦は珍しく目を丸くした。

「えーっと、まだ早いかなぁと。仕事もあるし?」

「ふぅん。でもね、生き甲斐を感じる程の仕事でもないじゃない?そりゃあ、いろいろ保証されてるし、倒産なんてないわ。だけど逆にそれが仕事する意欲を削いでる気がしない?」

と言う芳子の言葉に寧々が身を乗り出した。

「あ、それわかるかも。やってることが同じですもんね」

「そうね、つまり……凪いでる海なのよ。波がなく穏やかで動かずどこにも辿り着けない」

「なんか……それを聞くと凄くつまらない人生ですよね……」

寧々はガックリと肩を落とした。
しかし、美織の考えはそれとは少し違っていた。

「凪いでるなら、オールを持って漕ぎ出せばいいんじゃないかな?どこかに辿りつけるように」

なんだか恥ずかしいことを言ってしまった!と美織は後悔した。
だが寧々も芳子も、真剣な顔でなるほどと頷き、改めて美織を見る。

「素敵ね、きっとそういうところが玉の輿に乗れる秘訣なんだわ」

「ですね!私も今、実感しましたよ!ポンコ……黒田さんもそういうところに落ちたんだわっ!」

(やめなさい、恥ずかしい!!)

やたらと玉の輿を連発する二人の前で、美織は箸を持つ手を震わせながら最後の一口を放り込んだ。
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