この溺愛にはワケがある!?
寧々はとても大きく頷いた。
その顔は『当然わかりますよね!』と言っているようだが、美織には良くわからない。
仕方なく僅かに残っている大昔の記憶を一生懸命辿ってみた。

(ええと……学生の時付き合った彼とは……私の誕生日に外食に行って、ついついワインが美味しくて飲み過ぎて酔った勢いで……あ?え?これ、勢いでやってない?)

「先生、酒の勢いも《心の感じるまま》に入りますか?」

美織は真っ直ぐ優等生然として手を上げた。
その質問に芳子は真顔で答えた。

「入ります」

寧々もその横でうんうんと頷く。
どうやら、美織もそこまで堅物ではなかったらしい。
二人と同じカテゴリーに入ることが出来てホッとしたのも束の間、芳子がさらっと言ったことが波紋を呼んだ。

「そこから恋が始まって結婚することもあります。かくいう私もそうよ」

横で頷いていた寧々が、凄い速度で芳子を見た。
そして当然美織も見た。
芳子の旦那様は寧々も美織も良く知っていて仲が良い。
家に遊びに行ったこともある。
なぜそんなに仲が良いかと言えば、旦那様も同じ職場(市役所)にいるからだ。

「先生その話をちょっと詳しく……」

寧々は食らいつくように芳子に言ったが、その時ちょうど昼休み終了五分前のチャイムが鳴った。
芳子は何事もなかったかのようにお弁当箱を包み直し、表情を変えずに立ち上がる。

「残念ね。もう時間よ」

と、歯磨きのためにさっさと洗面所に歩いていった。
放置された寧々は、残った卵焼きを勢い良く放り込むと自分も急いで後を追う。

「絶対明日聞いてやる!!ね?美織さんっ!!」

「え?……ええ、そう……ね」

とは言ったものの、あまり知ってる人の生々しい話は聞きたくない。
会ったときに変な想像をしそうで怖いし、自分の時もそんな想像をされたらたまらない。
もしも、隆政とそういうことになったとしても軽々しく言うことは控えた方がいい。
と思いつつ、そんな機会が果たして訪れるのか?という疑問が頭の中を駆け巡っていた。
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