この溺愛にはワケがある!?
安心して炊飯器の前から離れた時、古びたインターフォンが鳴った。
透けて見える玄関には大柄な男の影が見える。
その影はひょっとしたら玄関の縦サイズより大きいんじゃないか、と思うくらいの存在感があった。

「は、はーい。た、隆政さん?」

三和土に降りて美織は影に声を掛ける。

「はい。俺……です」

影は少し動くと引き戸の向こうで小さく手を振った。

「ど、どうぞ」

そろりと玄関を開けると、満面の笑顔の隆政が少し赤い顔をして立っていて、後ろ手に何かを隠していた。

「こっ、これ!どうぞ!」

大きい隆政の後ろから出てきたのは、大量のピンクのバラの花束。
質素な玄関はいきなり現実離れした空間になった。

「わぁ!どうしたの!?これ、凄いわ!!凄い!凄く綺麗!!」

美織は、凄い!を連発した。
それほどの迫力があったのだ。
未だかつて、花束を(しかもざっと見ても二十本以上はある)贈られたことなどない。
というか、悲しいかな花の一本すら貰ったことはない………。
そんな洒落たことをする男と付き合ったことがなかったのだ。
しかも誕生日でもクリスマスでもホワイトデーのお返しでもない。

(あれ?えっと、これ何かな??)

美織はバラの陰に隠れたまま隆政に尋ねた。

「隆政さん、このバラ、お土産??」

「ん?あ、あのな、出会って一か月記念のバラ」

「は?」

「出会って一か月経ったろ?」

(それは知ってるけど!出会って一か月って、それ記念日なの??)

美織が黙って呆けていると、ハッとした隆政が言い訳をするように慌てて捲し立てた。

「ちっ、違うぞ!!こんなこと、みおに初めてするんだからな!他の誰にもしたことないぞ!」

(ああ……何か勘違いしてる……それは、考えてなかったわよ?)

「はいはい。とにかく!とても嬉しいです!」

美織は花束をありがたく頂くことにした。
わからないことは多々あるが、それは今重要なことでもないような気がしていたからだ。

「良かった!邪魔だとか言われたらどうしようかと思った……」

(うん、付き合う前なら言ったかもね。でも、花は好きだから快くもらってたかも?)

おずおずと手渡す隆政からバラを受け取り、美織は満面の笑みを浮かべた。
それを見ていきなり手持ち無沙汰になった隆政は、またタコの如く真っ赤になるのだった。
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