この溺愛にはワケがある!?

隆政、家族に挨拶をする

「ありがとう、でも、まさか出張から持って帰った訳じゃないよね?」

どうぞ、と隆政を玄関に促しながら美織は尋ねた。
これを持って飛行機は乗りづらいだろうなと、ふと思ったのだ。

「ああ、うん。これはこっちの空港に着いてから買った。遅くまでやってた花屋が見えて……本当は鉢植えにしようかと思ったんだがな」

「いや、それはー……うん、ありがとう」

それはそれで嬉しいが、きっと置場所に困る。
美織は心の中でほっとしていた。

「花、好きだろ?バラ園でもこの色のやつ、ずっと見てたし……な」

「う……うん!好き」

思わぬ隆政の言葉に、美織は一瞬言葉を失った。

(この人は、本当に私を良く見てる。どの色の花を長く見てたかなんて、そんなの普通覚えてないでしょ?)

そう考えると、隆政が言う言葉の一つ一つは偽りのない言葉なのかもしれない。
まぁそれは、最初の発言を除いてだと本人は言っていたが。
美織は最初出会った時の隆政を思い出してクスッと笑った。

「何だ?そんなに面白いことあったか?」

どうやら、自分のことを笑われたのには気づいたらしい。
隆政は怒ったように美織を肘で小突いた。

「……何でもない。あ、ごめんなさい、上がって」

うっかり三和土(たたき)で話し込んでいた美織は、急いで隆政を中へ招き入れた。

「お邪魔します」

「はい、どーぞ!」

隆政はスッと音もなくスニーカーを脱ぐと、今度はさっと屈んでちゃんと揃えている。
やはり育ちがいいのか、御曹司はラフな格好をしていても礼儀正しい。
どういう教育をされたのか!?と、訝しんだこともあったが、こういう礼儀はしっかりしている。

(さすがセレブ様ー。動作に品があるわー)

「どうかした??」

じーっと挙動を見詰められ、隆政の動きが止まった。

「へ?あ、いえいえ。ちゃんと靴を揃えて偉いなって」

「子供か!!」

とは言うが、隆政はとても嬉しそうだった。
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