この溺愛にはワケがある!?
進水式②
迎えの車に乗り込み二人は造船所に向かった。
漸くホッとして周りが見えるようになった美織は、高級車を丁寧に運転する壮年の男に目を向けた。
隆政と運転手は良く知った間柄らしく、軽口を言いながら会話している。
その内容から推察すると、運転手は本社総務部の人で本来なら社長付きの人(車は社長専用車)だが、今日はこちらを優先するようにと言われたらしい。
社長専用車は隆政の車と同じ車種で更にグレードが高く、後部座席はとても広い。
美織は気後れしつつも暫しシートの心地よさを堪能した。
「副社長、このまま式典会場に向かいますか?それとも、一度本社に?」
「そうだな、先に彼女を連れて社長の所へ行くよ。本社にいってくれ」
「わかりました」
総務部の人はミラーで美織をチラッと見て、目が合うと人懐っこく頭を下げた。
どこの会社も窓口になる部署の人間は人当たりの良いことが多い。
市役所の住民課、秘書課、広報課辺りもそうだ。
総務部の彼もきっとそういった能力に長けているのだろう。
十五分ほど車を走らせると、景色は様相を変えて大型のクレーンが立ち並ぶ工業地帯へと変わる。
造船所が密集するこの一帯は、地域産業の上位を占めていた。
その中でもダントツに抜きん出ているのが黒田造船。
そのナンバー2と共に今高級車に乗っているなんて、以前の美織が想像出来ただろうか。
「ん?何?」
考えを巡らせ過ぎていつの間にか隆政を見つめていたようだ。
不思議そうな顔で尋ねる彼に美織は言葉もなくただ首を振った。
「……もうすぐ着くからな」
「うん、わかった」
言葉に少なに会話をし、静かな車内は更に静かになった。
やがて、車は白いコンクリート作りの建物の前に停まる。
見上げると八階建てで、同じようなビルが二棟繋がっていた。
隆政に聞くと一棟は外国の船員用の宿舎も兼ねているらしく、ビジネスホテルの用な内装になっているとか。
正面玄関で車を降り隆政に手を取られ、美織は行政のいる社長室に向かう。
四階のボタンを押し、扉が閉まるとエレベーター内では二人きり。
珍しく緊張していると、突然隆政に後ろから抱き締められ心臓が止まりそうになった。
「た、隆政さんっ!??」
「ごめん、四階まで……ほんとごめん」
「もう着くよ?」
「くそっ!邪魔しやがって!!」
(エレベーターに悪態つく人、初めて見たわ……)
扉が開く二秒ほど前に隆政は極々自然に腕をほどいた。
そしてキリッとした表情になると美織の横に立つ。
「行こうか」
「うん」
軽快な音と共に扉が開いた。
目の前には床も壁も白いフロアがあり、誰の描いた物かわからないが高そうな絵画が飾られている。
その絵画の隣『社長室』とかかれたプレートの重厚な扉を隆政はノックした。
「社長、入りますよ」
隆政が声をかけると中からゴトンガタンと何かが激しくぶつかる音がした。
それから忙しない足音が聞こえ、直後、扉が勢い良く開く。
「美織さんかい!?」
危うく扉にぶつかりそうになった美織を隆政が腕を引き上手くかわした。
行政は扉の脇でこれ以上ないくらい破顔している。
漸くホッとして周りが見えるようになった美織は、高級車を丁寧に運転する壮年の男に目を向けた。
隆政と運転手は良く知った間柄らしく、軽口を言いながら会話している。
その内容から推察すると、運転手は本社総務部の人で本来なら社長付きの人(車は社長専用車)だが、今日はこちらを優先するようにと言われたらしい。
社長専用車は隆政の車と同じ車種で更にグレードが高く、後部座席はとても広い。
美織は気後れしつつも暫しシートの心地よさを堪能した。
「副社長、このまま式典会場に向かいますか?それとも、一度本社に?」
「そうだな、先に彼女を連れて社長の所へ行くよ。本社にいってくれ」
「わかりました」
総務部の人はミラーで美織をチラッと見て、目が合うと人懐っこく頭を下げた。
どこの会社も窓口になる部署の人間は人当たりの良いことが多い。
市役所の住民課、秘書課、広報課辺りもそうだ。
総務部の彼もきっとそういった能力に長けているのだろう。
十五分ほど車を走らせると、景色は様相を変えて大型のクレーンが立ち並ぶ工業地帯へと変わる。
造船所が密集するこの一帯は、地域産業の上位を占めていた。
その中でもダントツに抜きん出ているのが黒田造船。
そのナンバー2と共に今高級車に乗っているなんて、以前の美織が想像出来ただろうか。
「ん?何?」
考えを巡らせ過ぎていつの間にか隆政を見つめていたようだ。
不思議そうな顔で尋ねる彼に美織は言葉もなくただ首を振った。
「……もうすぐ着くからな」
「うん、わかった」
言葉に少なに会話をし、静かな車内は更に静かになった。
やがて、車は白いコンクリート作りの建物の前に停まる。
見上げると八階建てで、同じようなビルが二棟繋がっていた。
隆政に聞くと一棟は外国の船員用の宿舎も兼ねているらしく、ビジネスホテルの用な内装になっているとか。
正面玄関で車を降り隆政に手を取られ、美織は行政のいる社長室に向かう。
四階のボタンを押し、扉が閉まるとエレベーター内では二人きり。
珍しく緊張していると、突然隆政に後ろから抱き締められ心臓が止まりそうになった。
「た、隆政さんっ!??」
「ごめん、四階まで……ほんとごめん」
「もう着くよ?」
「くそっ!邪魔しやがって!!」
(エレベーターに悪態つく人、初めて見たわ……)
扉が開く二秒ほど前に隆政は極々自然に腕をほどいた。
そしてキリッとした表情になると美織の横に立つ。
「行こうか」
「うん」
軽快な音と共に扉が開いた。
目の前には床も壁も白いフロアがあり、誰の描いた物かわからないが高そうな絵画が飾られている。
その絵画の隣『社長室』とかかれたプレートの重厚な扉を隆政はノックした。
「社長、入りますよ」
隆政が声をかけると中からゴトンガタンと何かが激しくぶつかる音がした。
それから忙しない足音が聞こえ、直後、扉が勢い良く開く。
「美織さんかい!?」
危うく扉にぶつかりそうになった美織を隆政が腕を引き上手くかわした。
行政は扉の脇でこれ以上ないくらい破顔している。