この溺愛にはワケがある!?
「ふん、本当にちゃんと言えるのか?せいぜい美織さんに愛想をつかされんようにな」

「なっ!!」

前のめりになる隆政は、それでも美織の手前矛を納めたようだ。
そして一つ息を吐き、冷静に言った。

「……心得ていますよ。大丈夫です。俺は絶対にみおにうんと言わせてみせる」

大の男二人が一体何を言ってるんだか、と、美織は恥ずかしさで一杯になっていた。

(そんなに言われるほど大した女じゃないですって!!もう、恐い!!)

隣で微笑む隆政、前で色気を振り撒く行政。
2方向からの熱視線に晒されて、美織の頭はオーバーヒート寸前である。

その時、ドアがノックされお茶を持って事務の女性が入ってきた。
40前後の上品な人で、キチッと着こなしたスーツがとても良く似合っている。
女性は美織を見ると目を細め、丁寧に淹れた飲み頃のお茶を音も立てずに前に置いた。

「君も朝早くからありがとう。真田くん」

「いえ、仕事ですので。それに、社長の想い人を拝見出来て、非常に愉快ですわね」

と、真田と呼ばれた女性は淡々と答える。

「はははっ、想い人か。うん、間違ってないがな」

行政も慣れたようにそれに返事を返した。
黒田家の親戚か何かだろうか?
その受け答えには気安さが見える。

「真田さんは勤続20年のベテラン秘書なんだよ。爺さんも随分世話になってるからね。この会社の影の取締役だよ」

隆政が美織の疑問に答えた。

(また……なにも聞いてないのに……)

「あら怖い。副社長に持ち上げられるなんて槍が降るわね。あとね、あまり女性を繁々と見つめるものではなくてよ」

「は?!」

真田の言葉に隆政が声を大きくした。

「さっきから彼女を見つめすぎ。何も見逃したくないのはわかるけど、それは恐いわよ?」

「なっ!?そんなことは……」

と、隆政は美織の様子を伺った。
美織は何故隆政が自分の考えを先読み出来るのか、それを漸く理解した。
彼は美織を常に見ている。
そのことに気付いてはいたが、あまりにも当たり前過ぎて深く考えてはいなかった。
それにその視線は全く不快ではなかったのだ。

美織が気づいたのをやはり隆政は一番に見抜く。
『バレたか』という顔をして頭を掻いた隆政に、美織は何も言わずただ笑っておいた。
その先読みや洞察にはいつも驚くが、説明が要らなくて助かることの方が多い。
言わなくてもわかってくれるなんてこんな楽なことはない。
美織があまり不快と思っていないことに気付くと、隆政はホッと胸を撫で下ろした。
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