この溺愛にはワケがある!?
進水式⑥
ホテルの最上階、展望台が併設された一番大きなホールで懇親会は行われる。
隆政と美織が着いた頃にはバスの一行も来賓も皆到着して、始まるまでの歓談を楽しんでいた。
「乾杯のシャンパンを取ってくるよ」
と言う隆政に軽く頷き、美織はホールの中から開け放たれた扉の向こうを見つめた。
そこには何回か来たことのある洒落たバーが見える。
そのバーに来た時、ホールの扉の前で足を止めたことを思い出した。
確かあの時は、こんな大きいホールで誰がどんな会議をするんだろう、と考えていたのだ。
今こうやって、自分が中に入ることになるなんて思いもせずに。
「こら、またボーッとしてる」
トンッと背中をつつかれて、美織は我に返った。
シャンパンを取りに行った隆政が、いつの間にか戻ってきて呆れた顔をしている。
「あ、ごめん。何だか場違いな気がして……まぁ、ずっと思ってるんだけど」
「そんなことない。ここにいる皆、誰もそんなこと思ってないよ。考えすぎだ」
「そう?えー、いやいやそれはね、隆政さん達がセレブだから。私なんて小者を気にしないだけじゃない?」
「セレブ!?誰がだよ?」
「黒田の方々とか?船主さん一家とか?」
隆政は持っていたシャンパンを一つ、美織に手渡した。
そして開いた左手で美織の頬を軽くつねる。
「セレブじゃねーよ。世の中にはな、もっと凄い金持ちがゴロゴロいる。そんなのと比べると黒田なんてまだまだ……」
「いたた………十分セレブだと思うけど?」
「甘い!甘いぞ!みお!」
「なっ、何よ、いきなり……」
グッと顔を近づけて隆政は意気込んだ。
「日本の造船業は大分押されてるからな。立て直すには結構骨が折れるだろう。実際中堅の造船所なんかバタバタ倒れているし。生き残るのも必死だ」
「そうなんだ……私、経営のことはわからないから」
「ああ、ごめんな。ちょっと必死に説明しすぎたな」
隆政はすまなそうに頭を掻いた。
だがそんな彼を美織は少し格好いいと思っていた。
仕事の話をする隆政を見たのはこれが初めてではなかったが、その真剣な眼差しや現状をちゃんと把握した分析に美織は感心した。
「今の隆政さん、すごく素敵だった。冗談とか嘘じゃないわよ!本当に素敵見えた」
と、美織は思ったままを素直に告げた。
「素敵………?え、俺が?あの、どこが?」
よくわからない、という顔をして隆政は首をかしげている。
「経営のこととか、業界のこととか、すごく考えてるんだと思って。仕事のことを話す隆政さんが格好いいと思ったの」
「格好いい…………か?」
「うん」
ドンッ!
その音は、振り向き様に隆政が壁を殴った音だった。
丈夫な壁は少しも傷つかなかったが、隆政はイテッと手を二、三度振った。
「何してるの!?」
「う、嬉しくて……だってな、俺のこと格好いいなんて……初めて言ったんだぞ!!壁ぐらい殴るぞ、普通」
(殴らないわ!普通)
「まぁお宅の所有物件だから?蹴ろうが殴ろうがいいけども。手を怪我するでしょ!?もう、ほら見せて!」
美織は隆政の手を取り怪我の具合を確かめる。
幸い少し赤くなったくらいで外傷はない。
「うーん、大丈夫そうね?」
と、大きな手をパチンとはたく。
「イテッ……なぁ?みお?」
「何?」
「もう一回言って?」
「……………………嫌よ」
(バ、バカじゃない!?そんなこと改めて言うことじゃないの!それは勢いで言うことなの!!今こそ届け!私のこの想いっ!!)
「いいじゃないか!!もう一回!!」
こんな時だけ心が読めない隆政に、美織はガックリと肩を落とした。
隆政と美織が着いた頃にはバスの一行も来賓も皆到着して、始まるまでの歓談を楽しんでいた。
「乾杯のシャンパンを取ってくるよ」
と言う隆政に軽く頷き、美織はホールの中から開け放たれた扉の向こうを見つめた。
そこには何回か来たことのある洒落たバーが見える。
そのバーに来た時、ホールの扉の前で足を止めたことを思い出した。
確かあの時は、こんな大きいホールで誰がどんな会議をするんだろう、と考えていたのだ。
今こうやって、自分が中に入ることになるなんて思いもせずに。
「こら、またボーッとしてる」
トンッと背中をつつかれて、美織は我に返った。
シャンパンを取りに行った隆政が、いつの間にか戻ってきて呆れた顔をしている。
「あ、ごめん。何だか場違いな気がして……まぁ、ずっと思ってるんだけど」
「そんなことない。ここにいる皆、誰もそんなこと思ってないよ。考えすぎだ」
「そう?えー、いやいやそれはね、隆政さん達がセレブだから。私なんて小者を気にしないだけじゃない?」
「セレブ!?誰がだよ?」
「黒田の方々とか?船主さん一家とか?」
隆政は持っていたシャンパンを一つ、美織に手渡した。
そして開いた左手で美織の頬を軽くつねる。
「セレブじゃねーよ。世の中にはな、もっと凄い金持ちがゴロゴロいる。そんなのと比べると黒田なんてまだまだ……」
「いたた………十分セレブだと思うけど?」
「甘い!甘いぞ!みお!」
「なっ、何よ、いきなり……」
グッと顔を近づけて隆政は意気込んだ。
「日本の造船業は大分押されてるからな。立て直すには結構骨が折れるだろう。実際中堅の造船所なんかバタバタ倒れているし。生き残るのも必死だ」
「そうなんだ……私、経営のことはわからないから」
「ああ、ごめんな。ちょっと必死に説明しすぎたな」
隆政はすまなそうに頭を掻いた。
だがそんな彼を美織は少し格好いいと思っていた。
仕事の話をする隆政を見たのはこれが初めてではなかったが、その真剣な眼差しや現状をちゃんと把握した分析に美織は感心した。
「今の隆政さん、すごく素敵だった。冗談とか嘘じゃないわよ!本当に素敵見えた」
と、美織は思ったままを素直に告げた。
「素敵………?え、俺が?あの、どこが?」
よくわからない、という顔をして隆政は首をかしげている。
「経営のこととか、業界のこととか、すごく考えてるんだと思って。仕事のことを話す隆政さんが格好いいと思ったの」
「格好いい…………か?」
「うん」
ドンッ!
その音は、振り向き様に隆政が壁を殴った音だった。
丈夫な壁は少しも傷つかなかったが、隆政はイテッと手を二、三度振った。
「何してるの!?」
「う、嬉しくて……だってな、俺のこと格好いいなんて……初めて言ったんだぞ!!壁ぐらい殴るぞ、普通」
(殴らないわ!普通)
「まぁお宅の所有物件だから?蹴ろうが殴ろうがいいけども。手を怪我するでしょ!?もう、ほら見せて!」
美織は隆政の手を取り怪我の具合を確かめる。
幸い少し赤くなったくらいで外傷はない。
「うーん、大丈夫そうね?」
と、大きな手をパチンとはたく。
「イテッ……なぁ?みお?」
「何?」
「もう一回言って?」
「……………………嫌よ」
(バ、バカじゃない!?そんなこと改めて言うことじゃないの!それは勢いで言うことなの!!今こそ届け!私のこの想いっ!!)
「いいじゃないか!!もう一回!!」
こんな時だけ心が読めない隆政に、美織はガックリと肩を落とした。