この溺愛にはワケがある!?

進水式⑧

「だから!あれは……ああ言った方が締まるだろ?」

「そうだけど!いきなり伴侶って!ビックリして固まったわ!」

華々しいスピーチの後、ぎこちない笑顔で乾杯をし花束贈呈を終えた美織はホールの隅で隆政に食って掛かった。
もちろん、さっきの伴侶の件で。

「婚約者、でいいじゃない!?なんか伴侶って……もう、なんか……」

「何?」

「年取った気がするーー」

「はぁ??」

不思議そうな顔をして隆政が叫んだ。
てっきり妻扱いしたのが気に入らなかったのだと思っていた。
それが少し違うと気付き改めて問いかける。

「どういうこと?結局何が気に入らないのかな?」

「うぅ、伴侶って、長年連れ添った妻みたいでしょ?」

美織は口を尖らせて言う。

「そうだな」

「だからっ!一気に五十歳は老けた気分!」

「………ふはははははは」

「何がおかしいのよ!」

お腹を抱えて笑い出した隆政の胸を、美織は軽くパンチした。

「いやぁ、可愛いなって!ごめんごめん、はぁ……うん。じゃあなんて言おうか?」

「だから!婚約者、でいいと思うわ」

「ふぅん。わかったよ。じゃあ、婚約者殿?まずは結納の準備だな」

ん?と、美織は首を傾げる。
どうしてそうなった?と思ったことはもう隆政には筒抜けだ。

「《婚約者》でいいんだろ?」

「…………………あー……」

確かにさっきから何度も何度も言っていた。
婚約者でいい、と。
自発的に婚約者であることを認めた発言を隆政が聞き逃すはずはない。
美織がもう仕方ないか、と思った瞬間今度は隆政がそれを否定した。

「いや、ダメだな」

どうして?と聞くまでもなく続けて隆政が言う。

「ちゃんとプロポーズしてない。ちょっと待ってくれよ。何か考えるから……」

「………えー、別にいいんじゃない?」

「いいわけあるか!こういうことはちゃんとだな……ふぐっ!」

言葉を続けようとする隆政の口を美織は両手で塞いだ。

「強いて言うならっ!さっきの挨拶がそうなんじゃない?伴侶のやつ。意気込みもインパクトも十分だし、きっと一生忘れないし」

言いたいことだけいい終えると、美織はゆっくり手を離す。
プハッと息を吐き出した隆政は、それでもまだ不満気な顔をして呟いた。

「あんな堅苦しいのはどうかと思う。もっと……」
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