この溺愛にはワケがある!?
「あっ?おっ?な、な、なんじゃこれ!?」

美織は疲れの上に頭が働かず、当然語彙力もない。

「ぶっ!なんじゃこれ、て!」

「いやいや、ダメでしょー?盗撮じゃないのっ!」

「そうだね。だから今、了解とってるんだけど」

飄々といってのける毛利に苛立ちはあるが、今日の美織には食って掛かる元気がない。
そして当たり前だが、いいかどうかをここで決めることは出来ない。

「んー、隆ま……あー、黒田さんに聞いてみてからねー(絶対阻止するけど)」

「おー、そうだな。伴侶に聞いてみてくれ」

「………伴侶………」

まだ頭が働かず、ボーッとした美織に毛利が言う。

「有名人の結婚会見のようだったなぁ。それにしても加藤ちゃんがあんなイケメンセレブモノにするなんて同期は誰も想像してなかったよ」

(だよねー、私も想像してなかったからね)

「今日なんてその話で持ちきりだね。多分食堂なんてもう凄い騒ぎに……」

「はぁぁぁ???」

美織のカッと見開いた目に毛利は一歩後ずさる。
漸く目覚めてきた頭で毛利の言った言葉を反芻して分析した。
要するに………。
毛利がバラしたおかげで市役所の食堂ではその話題が飛び交っているということでは?!

「………言った?」

「言ったよ。だって、言うなって言われてないし」

(これだからっ!こんなんだからこの男はモテないんだ!!モテる男はねぇ、そういうことは言わなくてもわかるのっ!黙って口を閉じるものなのっ!)

美織は毛利を殴り飛ばしたくなる衝動を必死で堪えた。
幸いにも昼食はいつも休憩室でとっていて、食堂で食べることはまずない。
噂や陰口にさらされることはないだろう。
かといって許したわけでは更々なかったのだが。

「………今後余計なことは言わないように」

低い美織の声に毛利がビクッとなる。

「…………あ、はい。以後気を付けます。で、えーと、表紙の件、頼むな!じゃあ!」

と、後退りながら毛利は風のように去った。
美織はこれから始まるであろう上司からの質問攻撃や、全然知らない人からの声かけに戦々恐々とし、ため息をつく。
そして、改めてこの地域における黒田の力が凄まじいことに気付くのだった。
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