この溺愛にはワケがある!?
「………あー、えーと、どうでしょうねー」

「あ、ヤってるなこりゃ」

寧々がミートボールをグッサリ突き刺しながら言う。
何でバレた?という顔をした美織を見て、2人はクスクスと笑った。

「してないなら美織さんはしてません!!って言うでしょ?バレバレですから」

(うーーーほんと、良く見てるな……隆政さんといい、この2人といい……)

「いいじゃない。何が恥ずかしいのかわからないわ。誰でもするでしょう?」

芳子はいつものポーカーフェイスだ。
そして、ポーカーフェイスで下ネタも言う。
そんな人だったことを美織は思い出した。

「まぁ、はい……」

目を逸らし呟く美織を見て、芳子は納得したように頷いた。

「その様子だと、彼は上手(うま)かったのね」

(だから!!その話を広げるのをやめよう!ね?たのむからっ!)

「へぇ!あ、でもそりゃそうか!経験値が圧倒的だもん」

「駄目よ。寧々ちゃん。それは、加藤さんは気にしないだろうけど、彼は気にするわよきっと」

(ん?ん?なんで私は気にしないって思うのかなぁ?逆じゃない?普通は)

「え?何で?」

美織の疑問は寧々が訊ねてくれた。

「彼……黒田さんは加藤さんに会うまで、何人もの女性と付き合ったことを後悔してると思うの。だから、そういう風に言われたくないんじゃないかしら?」

「そんな風に考えます?男なら付き合った人数、自慢しそうですよ??」

寧々は首をかしげた。
その時美織は芳子の言葉であることを思い出す。
加藤家に来たとき、元カノズの話をしたことがあった。
隆政はあの時『無かったことにしたい』と、そう言ったのだ。

「人それぞれだからね。でも、加藤さんから話を聞くと、黒田さんはそういう人みたいに思えるわ。彼はきっと、もう他の誰でも満足できない。加藤さんじゃないと死ぬかもね」

「そっ、それは言い過ぎですよ!!も、も、もう恥ずかしいのでやめましょう!」

かぁっと赤くなった美織を見て、芳子も寧々もふふっと笑う。

「しょうがないわね。本当はもっと掘り下げて聞いて、羞恥にまみれさせようと思っていたのに」

芳子はニヤリと口の端を上げた。

(鬼!?福島・S・鬼子!!そう呼んでやるっ!!もちろんSはサディストのS!!)

「こっわ!私の時もやります?それ?」

寧々はブルッと体を震わせる。

「当たり前よ。こういうのはね、通例行事なの。誰もが通る道よ。そしてね、それを楽しむのは洗礼を受けたものだけ」

鬼はそれはそれは愉しそうに笑っている。
なるほど、芳子も何年か前に同じような目にあってるんだ、と美織は納得した。
そんな通例行事が市役所にあったことすら知らなかったが、それは色事に縁の無かった美織だったからだろう。

「のろけを聞いてあげるんだから本当は感謝してもらいたいものだわ」

別にのろけたかったわけではない。
と美織は思ったが、直後、芳子と寧々が『おめでとう』と微笑んだことにじんわりと胸が熱くなっていた。
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