この溺愛にはワケがある!?
隆政の窓の補強が終わった頃、ちょうど夕食も出来上がった。
ヒラメのアラで出汁を取り、肝も加えたコクのあるお味噌汁。
いろいろな刺身の切り落とし部分を一晩酢漬けにし、それを余った野菜と合わせらっきょう酢でアレンジした酢の物。
ほうれん草のピーナツ和えと、ゴボウの黒胡麻サラダも添える。
そしてメインは鶏の天ぷらを磯辺揚げにした。
どれも激安お買得品である。
安い素材を使って沢山作ること。
祖母と暮らしていたころから、鍛えられた技でこれが美織の楽しみの一つになっていた。
「今日も凄いな!良くあの材料でここまで……あ、いや、これは褒めてるんだぞ!?」
「ふふ、知ってます。どうぞ座って召し上がれ」
隆政は申し訳なさそうに頭をかくと、椅子の背を引き腰かける。
熱いお茶が苦手な隆政の為に、予め淹れて冷ましておいたものを持って、美織も前の椅子に腰かけた。
「いただきますっ!」
と、二人で同時に言うと自然と笑みが溢れる。
隆政は客用のお茶碗とお箸を持ち、早速鶏天にかぶりついた。
それを見ていつまでも客用を使わせるのもなぁ、と美織は思っている。
そろそろ専用のものをと探してはいるのだが、さすがに近所の100円均一では味気ない。
マンションで使ってるのを持ってきてくれれば一番いいのだが。
美織は聞いてみることにした。
「隆政さん、お茶碗とお箸、マンションから持ってきてくれない??」
「茶碗??」
隆政はお味噌汁を啜りながらこちらを見た。
「うん、いつまでもお客さん用を使うのもねぇ」
「茶碗なんてないよ。食器なんてグラスやカップしかない」
「………えー………と、どういうこと!?生活してないの!?ご飯食べないの!?水でだけで生きてきたの!?」
美織は茶碗や箸を使わない生活をする人に出会ったのは初めてだった。
いやそもそも使わずに生活に出来るのか疑問だ。
その疑問に隆政はいとも簡単に解答を出す。
「自宅で食わないから。いつも外食か、本家で食うか、だな」
ああ、なるほど。
と、美織はあっさり納得した。
考えてみれば、隆政が自宅で料理をしている姿なんて全く想像が出来ない。
外食ばかりでも懐は痛まないし、まぁ栄養は偏るが問題はないのだろう。
疑問はあっさり解決したのだが、美織は少し意地悪をしたくなってしまった。
「家に元カノズが来てご飯作ってくれなかったの?」
その質問に隆政は、酢の物に手を出しかけてピタリと止めた。
「どうもそういう質問が好きなようだな。わかった。何でも話す。まずな、自宅には誰も入れたことはない。自宅には寝に帰るだけだ。前にも言ったが、良く知らない人の作ったものは食べられないんだ、気持ち悪くて」
「ああ、うん。言ってたね」
「外食を除くと、食べられたのは祖母の飯と、みおの飯くらいだ。ああ、洋二んとこの焼き鳥も食えるけどな」
「うん」
「他には?何かあるか?何でも聞いてくれ。みおに嘘はつかない」
「…………私のどこが良かったの?」
美織は考えていた。
前田課長に言われてからずっと。
多分、言われなかったら聞かなかったのかもしれない。
恥ずかしいし、特にその必要もないと思っていたから。
だが『嘘をつかない』という彼の言葉に初めて、聞いてみたい、と思ったのだ。
ヒラメのアラで出汁を取り、肝も加えたコクのあるお味噌汁。
いろいろな刺身の切り落とし部分を一晩酢漬けにし、それを余った野菜と合わせらっきょう酢でアレンジした酢の物。
ほうれん草のピーナツ和えと、ゴボウの黒胡麻サラダも添える。
そしてメインは鶏の天ぷらを磯辺揚げにした。
どれも激安お買得品である。
安い素材を使って沢山作ること。
祖母と暮らしていたころから、鍛えられた技でこれが美織の楽しみの一つになっていた。
「今日も凄いな!良くあの材料でここまで……あ、いや、これは褒めてるんだぞ!?」
「ふふ、知ってます。どうぞ座って召し上がれ」
隆政は申し訳なさそうに頭をかくと、椅子の背を引き腰かける。
熱いお茶が苦手な隆政の為に、予め淹れて冷ましておいたものを持って、美織も前の椅子に腰かけた。
「いただきますっ!」
と、二人で同時に言うと自然と笑みが溢れる。
隆政は客用のお茶碗とお箸を持ち、早速鶏天にかぶりついた。
それを見ていつまでも客用を使わせるのもなぁ、と美織は思っている。
そろそろ専用のものをと探してはいるのだが、さすがに近所の100円均一では味気ない。
マンションで使ってるのを持ってきてくれれば一番いいのだが。
美織は聞いてみることにした。
「隆政さん、お茶碗とお箸、マンションから持ってきてくれない??」
「茶碗??」
隆政はお味噌汁を啜りながらこちらを見た。
「うん、いつまでもお客さん用を使うのもねぇ」
「茶碗なんてないよ。食器なんてグラスやカップしかない」
「………えー………と、どういうこと!?生活してないの!?ご飯食べないの!?水でだけで生きてきたの!?」
美織は茶碗や箸を使わない生活をする人に出会ったのは初めてだった。
いやそもそも使わずに生活に出来るのか疑問だ。
その疑問に隆政はいとも簡単に解答を出す。
「自宅で食わないから。いつも外食か、本家で食うか、だな」
ああ、なるほど。
と、美織はあっさり納得した。
考えてみれば、隆政が自宅で料理をしている姿なんて全く想像が出来ない。
外食ばかりでも懐は痛まないし、まぁ栄養は偏るが問題はないのだろう。
疑問はあっさり解決したのだが、美織は少し意地悪をしたくなってしまった。
「家に元カノズが来てご飯作ってくれなかったの?」
その質問に隆政は、酢の物に手を出しかけてピタリと止めた。
「どうもそういう質問が好きなようだな。わかった。何でも話す。まずな、自宅には誰も入れたことはない。自宅には寝に帰るだけだ。前にも言ったが、良く知らない人の作ったものは食べられないんだ、気持ち悪くて」
「ああ、うん。言ってたね」
「外食を除くと、食べられたのは祖母の飯と、みおの飯くらいだ。ああ、洋二んとこの焼き鳥も食えるけどな」
「うん」
「他には?何かあるか?何でも聞いてくれ。みおに嘘はつかない」
「…………私のどこが良かったの?」
美織は考えていた。
前田課長に言われてからずっと。
多分、言われなかったら聞かなかったのかもしれない。
恥ずかしいし、特にその必要もないと思っていたから。
だが『嘘をつかない』という彼の言葉に初めて、聞いてみたい、と思ったのだ。