MARCH
 数学の問題集とノートで一杯になった机の上に水分を未だに感じる。
 二時間目に体育館で行われた体育の授業が終わって教室へ帰ってくると、窓側の俺の席はひどく濡れていたのだった。授業前にクラスのバカ約一名が窓を全開にしていったらしい。曰く、だって一時間目は暑かったじゃん! だそうだ。確かに二限の途中でいきなり降ってきたけどさ。
 幸か不幸かその被害も俺だけなのだが、なんとなく不運という言葉だけでは片付けたくないと思う。
 あぁ、また雨が入ってきた。
 俺は黙って窓の隙間を更に狭める。これで「暑い」とか「風がない」とか文句が出てきたら俺の被害状況を詳細に説明しよう。その上で改めて冷房を求めよう。もういいじゃん、六月なんだから体育の後くらい冷房つけようよ、先生。俺ら頑張って走ってきたんだよ、足痛いんだよ、マジで。
 しかし俺と先生の間に以心伝心はないらしく、冷房目当ての熱い視線を先生は見事に勘違いして
「あ、じゃあ問3を佐伯くん」
 ……先生。俺が欲しいのは指名じゃなくて冷房です。心の潤いです。癒しです。しかも問3って応用問題じゃないですか。俺が解けるわけないじゃん。俺の成績知ってるでしょ?



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