MARCH

 授業が終わってから俺を見殺しにしようとした拓麻を問い詰める。彼はいつものように掴みどころのない笑顔で
「だって佐伯おもしろいんだもん」
と答えた。どこがだよ、と言うと「全部」と語尾に音符をつけた答えが返ってきた。
「そういえばさ、知ってる?」
 拓麻が話題を転換した。
「A組にさ、相葉メイっているじゃん」
「相葉メイ? うん、相葉さんがどうしたの?」
「メイちゃんって彼氏いるらしいよ」
 みたいだね、と淡白な感想を冷たく返すと、拓麻はだいぶ不満そうな顔をした。俺は拓麻の顔を見ずに、教科書を揃えながら会話を続行する。
「そんなの、知ってたよ。つかね、みんな知ってる。知らない方がおかしい」
「じゃあさ、彼氏が誰かは知ってる?」
「タケルでしょ」
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