MARCH
「あたり」
 彼は笑うと椅子から立ち上がった。廊下のロッカー(一応いうけど、別にギャグじゃないから)に世界史の教科書を取りに行くという。黒板の上に貼られている時間割を目を細めて見ると、確かにそう書いてあったから、俺も数学の教科書を机に押し込み、立ち上がった。
「ていうか、タケルに」
 小さい声で俺が言う。すると拓麻がふっと俺を見た。
「何?」
 何でもない、というのもどうかと思って、俺は小さな脳をフル回転させて新しい話題を探した。
 でもそんなものは見つからなくて、俺たちはやっぱり同じ話を繰り返した。ただ切り口を僅かにかえてみただけだ。
「拓麻って相葉さんと仲いいの?」
「何で?」
「さっきメイちゃんって言ってたから」
 ほら、相葉さんってメイちゃんって呼ばれるような人じゃないじゃん? と後から付け足すと、拓麻は「そーだねぇ」と呟いた。

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