MARCH
 んー、と彼が悩む声は口笛のように。拓麻はロッカーから世界史の教科書を取り出した。俺も自分のそれから、端の折れた教科書を取り出す。
 落書きの跡は授業中の暇つぶし、もしくは寝ないための予防、あるいは寝てしまった結果です。少し多めに見積もって3:2:5の割合で寝てるけど。
 うまく閉まらないロッカーの戸を少し乱暴に閉めた。隣のロッカーの女子がちょっとびっくりしたように見えたから、なんとなく謝ってみる。謝った後でその意味のわからない謝罪に釈然としない気持ちを抱いた。
「メイちゃんとはさ」
 俺を待っていてくれたらしい拓麻が口を開いた。
「小学校が一緒なんだよね。中学入る前に引っ越したんだけど」
「拓麻が?」
「あ、違う違う。メイちゃんの方が」
 
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