訳あり結婚に必要なもの
女性達に相談したら、『あの増谷さんにヤキモチを妬かれるなんて幸せじゃない』とあたしの悩みは贅沢だと退けられた。
あたしの悩みを真剣に聴き、別れるという決断を後押ししてくれたのは他の誰でもない、三輪だった。
『香澄さんの“仕事だ”と言う言葉を信頼できない男なんて、香澄さんにはもったいない』
『普段言いたいことをズバズバ言う香澄さんが、黙って我慢してまで一緒にいるほど、価値のある男なの?』
和明と食べるホテルの高級フレンチより三輪と愚痴り合いながら食べる社食の500円のランチの方が、あたしにとってはずっと意義のあるものだと感じた。
だから、和明に別れを告げた。
和明は納得していなかったけれど、そのうちに和明の地方支社への転勤が決まり、渋々了承してくれた。
……はずだった。
そんな彼がどうしてここにいるのか。どうして、あたしを待っていたのか。
嫌な予感がする、これは逃げるべきだとあたしの本能が訴えた刹那、和明は口を開いた。
「俺は君がまだ忘れられない。来月から本社勤務になるから、良かったらもう一度やり直さないか」
「あたしには未練なんてないので、お帰り下さい」
「相変わらずの意地っ張りだなぁ。そろそろ、俺のことを今でも好きだと素直に認めたらどうだ?」
あたしのつれない態度は、感動の再会と甘い告白に照れたせいだと思われてるんだ。どんだけ、おめでたい頭なんだろう。
これが営業部のエースなんだから、うちの会社相当やばいんじゃないの。