訳あり結婚に必要なもの
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「それはまた、大きな嘘をついたもんだな」
三輪は缶ビール片手に、楽しそうに肩を揺らす。声には出さず大きく肩を震わせるのが、三輪のいつもの笑い方だ。
「他人事だと思うから笑えるのよ!」
あれから数日後の金曜日。あたしの部屋である。
会議のあとそのまま直帰し、約束通り三輪と飲みに行った。でも一軒目だけではまだまだ話し足りなくて、あたしの部屋で二次会を始めたところだ。
一連の仕事の愚痴が終わった所で、かの元彼との再会について話してみた。相手が鬱陶しくて存在すらしない婚約者がいると嘘をついたことを話をしたところ、冒頭の反応だ。
「で?増谷さんの反応は?」
「そのときは呆然としていたけど、翌日から『相手は誰だ』とか『一度会わせろ。俺が見定めてやる』とかそんなラインが毎日」
さすがに引き継ぎが忙しいらしく家の前で待ち伏せはしないが、あれからひっきりなしに連絡が来る。こっちはことごとく無視しているというのに、それはそれは、しつこい。
「それは確かに鬱陶しいね」
やっぱり三輪は可笑しそうに肩を揺らす。でもあたしがひと睨みをすると揺れは止まった。
「でも実際どうするのさ。相手なんていないんでしょう?」
「いない」
いたら、残業無しの金曜日に三輪とビールなんか呑んでない。
「どうするの?」
「考えてなかった」
だって、早く帰って寝たかった。それだけで吐いた嘘だったもん。
「香澄さんってたまに、何も考えずに動くよね」
「案ずるより生むが易しって言うじゃない」
「その行動力は香澄さんの長所であり短所だよな」