訳あり結婚に必要なもの
「結婚といえばさ」
新しい缶ビールを開けながら、三輪がボソッと呟く。
「ん?」
「僕、技術部長にお見合いの話持ってこられたんだけど」
……お見合い?
お見舞いじゃなくて、お見合い?
「お見合いってあれ?あのホテルとかで初めまして〜ってして、あとは若いお2人でごゆっくり〜ってやつ?」
「うん。そのお見合い」
三輪は他人事のように笑っている。肩を震わせながら。
「なんでまた、いきなり」
「主任という役職がついたんだから、そろそろ身を固めたらどうだ?って」
今の時代にもそんなこと言う人いるんだ。役職がつけば平社員以上に信頼が必要になるのは確かだけど、『既婚者 =信頼』って言う概念に何の根拠があるのだろう。独身であっても信頼できる人はいるし、むしろ結婚していても信頼できない人はできないというのに。
そこで、あれ?と気づいた。
「その理屈でいくとあたしも結婚しなくちゃいけないじゃん」
これでも主任だ。あたしも三輪も同じ人事異動で主任に任命されたんだ。だが、あたしは部長から結婚を迫られてなんかない。
「女性は結婚を機に離職したり、産休や育休で休むことが多くなるから、それを懸念されているんだと思う」
「何、その時代錯誤な考え方……!」
今時、共働きが珍しいことでもないし、独身でも時々出来ちゃったとか言って突然産休取るよ?
「でも役職うんぬんは置いといて、部長はただお見合いでくっつけることを楽しみにしているだけだから、香澄さんが結婚したい!って言ったらいい人紹介してくれると思うよ」