訳あり結婚に必要なもの
ギョッとするような三輪の提案にあたしは大きくかぶりを振った。
部長の紹介なんてとんでもない。
「プライベートまで部長に頭が上がらないとか勘弁だわ」
「それは同感」
結婚願望がない訳ではない。でも、最近すごく仕事が面白くなってきたところ。恋人のための時間があるなら、もっと仕事に費やしたいとも思う。
それに部長のお世話にはなりたくない。
「三輪は部長にちゃんと断ったの?お見合いの話」
気になったことを素直に訊くと、三輪は苦笑いのように口角を上げた。
「考えさせてくださいって言って逃げてきた」
「さっさと結婚するなり何なりしない限り、言いくるめられてそのままお見合いさせられそうだね」
三輪は優しい。優しすぎるゆえに、度々言いくるめられてしまう。女性関係だってそう。肉食女子の猛アピールに負けていつの間にか付き合っている。
あたしと和明の始まり方と、ある意味ではよく似ているのかもしれない。
ただ違うのは三輪が優しすぎるゆえに、デート中でも全く強引さがないため、物足りなくなった女性に振られることぐらいだろう。
中性的な顔に、短く揃えられた髪。程よくついた筋肉。身長は179センチとそこそこ高い。あと1センチが欲しいって常日頃から言ってるけど。
そんな三輪はアイドルほどのイケメンではないけれど、爽やかでいいよねとみんな口々に言う。
仕事だって出来る。30歳で主任研究員を任されたということは、なかなかの出世頭だ。
誰に聞いても三輪は「いい人」だと言う。
困ったり、驚いたり、時に拗ねたりするけれど、怒ったところをほとんど見たことがない。困っている人がいればいち早く見つけて手を差し伸べてくれる。
でも、いつだって「いい人」で終わってしまうのが三輪の残念なところだと思う。