訳あり結婚に必要なもの
三輪の手元からビール缶を抜き取る。まだ少し残っていたから、捨てるのも勿体無くてそのまま口をつけた。
三輪が握りしめていたせいで、ビールは僅かにぬるい。
明日は久しぶりの休日だ。でも特にすることもないし、家事さえ済んだらセンターに行こうかな。三輪はどうするんだろう?明日は三輪も休みって言ってたから、三輪を連れ回して買い物に行くのもいいかもしれない。
ビール缶を台所に持っていく。中に水を入れて軽く振ったら捨てる、という作業を3回繰り返す。3回。三輪にやらせても3回やる。これは大学、大学院での化学実験で『洗い込みは必ず3回』と口酸っぱく言われてきたせいだろう。水でゆすいだ後は缶ばかりを集めたごみ袋に捨てた。ビール缶を潰す音は夜の静寂にはよく響くのに、三輪はピクリともしない。
洗面所でメイクだけ落として、部屋着に着替えたら、机に顔を預けてぐっすり眠る三輪を横目にベッドに入った。でもなんとなく気になって三輪のそばに行き、その体を机から引き離す。無防備なその体はエイっと押すと重力に従ってカーペットの上に横たわった。タオルケットを体に掛け直してやる。格好は仕事帰りの服装のままだが、皺になろうがそんなもの知らない。あたしの部屋に何故か三輪が置いてった部屋着があるのに、寝落ちする三輪が悪いんだ。
一仕事を終えたあたしは再びベッドに入り、部屋の電気を消した。
「……おやすみ。三輪」
まるで「おやすみ」と答えるように三輪の寝息が聞こえた。