訳あり結婚に必要なもの
丸テーブルに向かい合わせに座って手を合わせる。
「いただきます!」
「いただきます」
早速、三輪が作ってくれた卵焼きを食べる。あたしが作ったら穴ぼこだらけになるのに、どうして三輪が作るとこんなに綺麗な渦になるんだろう。
「美味しい!三輪!」
「ありがとう」
「あんた、いい嫁になるわー」
三輪と結婚する人っていいな。
毎日、こんな美味しい朝ごはんを作ってもらえるなんて。
「生憎、今貰い手ないんで」
「あはは。そうでした、そうでした」
「香澄さんが貰ってくれると助かるかも」
「あはは、いいね、それ」
じゃあ、三輪の朝ごはん食べ放題だ。
三輪が作った朝ごはんを食べて、あたしが食器を洗う。シャボンの香りの中、室内を駆け回る小さな男の子と女の子。怪獣みたいな2人を着替えさせようとズボン片手に奮闘する三輪。
『部屋の中は走らなーい!』
あたしの怒鳴り声はきっと誰にも届かなくて、小さな怪獣2人と大きな大人が家の中で鬼ごっこ……。
「……って、ええ!?」
あたしの妄想があまりにリアルで思わず声を上げてしまった。あたしの一歩遅れた反応がツボに入ったらしく、三輪は肩を震わせて笑う。
「冗談だよね、三輪」
「まさか。冗談でこんなこと言わない」
「ええ!?」
さっきまで笑っていたくせにその瞳は真剣で。彼がお箸を置いて姿勢を正すからあたしも慌てて正座した。あたしが卵焼きを咀嚼し終わるのを待って、彼は口を開いた。
「香澄さん。よかったら僕と結婚してください」