訳あり結婚に必要なもの

丸テーブルに向かい合わせに座って手を合わせる。

「いただきます!」
「いただきます」

早速、三輪が作ってくれた卵焼きを食べる。あたしが作ったら穴ぼこだらけになるのに、どうして三輪が作るとこんなに綺麗な渦になるんだろう。

「美味しい!三輪!」
「ありがとう」
「あんた、いい嫁になるわー」

三輪と結婚する人っていいな。
毎日、こんな美味しい朝ごはんを作ってもらえるなんて。

「生憎、今貰い手ないんで」
「あはは。そうでした、そうでした」
「香澄さんが貰ってくれると助かるかも」
「あはは、いいね、それ」

じゃあ、三輪の朝ごはん食べ放題だ。
三輪が作った朝ごはんを食べて、あたしが食器を洗う。シャボンの香りの中、室内を駆け回る小さな男の子と女の子。怪獣みたいな2人を着替えさせようとズボン片手に奮闘する三輪。
『部屋の中は走らなーい!』
あたしの怒鳴り声はきっと誰にも届かなくて、小さな怪獣2人と大きな大人が家の中で鬼ごっこ……。

「……って、ええ!?」

あたしの妄想があまりにリアルで思わず声を上げてしまった。あたしの一歩遅れた反応がツボに入ったらしく、三輪は肩を震わせて笑う。

「冗談だよね、三輪」
「まさか。冗談でこんなこと言わない」
「ええ!?」

さっきまで笑っていたくせにその瞳は真剣で。彼がお箸を置いて姿勢を正すからあたしも慌てて正座した。あたしが卵焼きを咀嚼し終わるのを待って、彼は口を開いた。

「香澄さん。よかったら僕と結婚してください」
< 19 / 27 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop