訳あり結婚に必要なもの

「ほら!お父さん。シャキッとして!せっかくの男前が台無しですよ?」

母が苦笑いしながらティッシュの箱を父に勧めると、父は乱暴にティッシュを二、三枚引っこ抜き勢いよく鼻を噛んだ。そのティッシュをぎゅっと握りしめて、これまた勢いよく頭を下げる。

「貴史くん。美和のことを宜しくお願いします!」

さっきまで泣いてたくせにハキハキとした声だった。そしてその声に負けないぐらい大きな声で、三輪は言った。

「ありがとうございます。必ず幸せにします」
「ありがとう」

頭を下げたあたし達。母が穏やかな微笑みを浮かべている。

「たまには帰ってくるのよ、美和ちゃん」
「もちろん。あたしはこれからも、お父さんとお母さんの娘だから」

あたし達はそれから両親の勧めで一緒に夕食を食べた。父は祝杯だとか何とか言ってどこに隠していたか母も知らなかったウイスキーを取り出した。明日が夜出勤なのをいいことに父は三輪に飲ませる。

あたしの小さい頃の出来れば闇に葬りたい失敗談をお酒のあてにして。

「お母さん、洗い物はあたしがやるよ」
「じゃあ、お母さんは拭いていくね」

飲むのは好きなくせにすぐに酔い潰れる二人は割とあっさりと寝落ちして、あたしと母は洗い物に取り掛かった。

「美和ちゃん、よかったわね」
「うん」
「幸せになりなさいね」
「うん」

あたしが水で濯いだ食器を受け取りながら、母は穏やかに笑った。
訳あり結婚の報告は突然で、だけど喜んでもらえたことが嬉しかった。
< 27 / 27 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:3

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

終わったはずの恋だった。

総文字数/11,225

恋愛(純愛)23ページ

表紙を見る
太陽と月の物語

総文字数/64,391

恋愛(純愛)121ページ

表紙を見る
俺様彼氏と不器用なクリスマス

総文字数/9,795

恋愛(純愛)15ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop