訳あり結婚に必要なもの
「ほら!お父さん。シャキッとして!せっかくの男前が台無しですよ?」
母が苦笑いしながらティッシュの箱を父に勧めると、父は乱暴にティッシュを二、三枚引っこ抜き勢いよく鼻を噛んだ。そのティッシュをぎゅっと握りしめて、これまた勢いよく頭を下げる。
「貴史くん。美和のことを宜しくお願いします!」
さっきまで泣いてたくせにハキハキとした声だった。そしてその声に負けないぐらい大きな声で、三輪は言った。
「ありがとうございます。必ず幸せにします」
「ありがとう」
頭を下げたあたし達。母が穏やかな微笑みを浮かべている。
「たまには帰ってくるのよ、美和ちゃん」
「もちろん。あたしはこれからも、お父さんとお母さんの娘だから」
あたし達はそれから両親の勧めで一緒に夕食を食べた。父は祝杯だとか何とか言ってどこに隠していたか母も知らなかったウイスキーを取り出した。明日が夜出勤なのをいいことに父は三輪に飲ませる。
あたしの小さい頃の出来れば闇に葬りたい失敗談をお酒のあてにして。
「お母さん、洗い物はあたしがやるよ」
「じゃあ、お母さんは拭いていくね」
飲むのは好きなくせにすぐに酔い潰れる二人は割とあっさりと寝落ちして、あたしと母は洗い物に取り掛かった。
「美和ちゃん、よかったわね」
「うん」
「幸せになりなさいね」
「うん」
あたしが水で濯いだ食器を受け取りながら、母は穏やかに笑った。
訳あり結婚の報告は突然で、だけど喜んでもらえたことが嬉しかった。