訳あり結婚に必要なもの
あたしは意を決して今日の要件を切り出した。
「あたし結婚しようと思って」
数秒、沈黙があった。たぶんあたしがあっさりと凄いことを言ったから飲み込むのに時間が掛かっているのだろう。
『えええーーーー!?』
『どうした?お母さん!』
電話の向こうから母の叫び声を聞いた父の声も届いた。
『お父さん!大変!美和ちゃんが結婚するって!』
『なんだって!?』
叫び声の大きさに思わず耳からスマホを離してしまう。その様子を見たあたしの"婚約者"は声を潜めながら肩を震わせて笑っている。
『美和ちゃん!おめでとう!あなたに結婚を考えている恋人がいたなんて知らなかったわ』
「うん。いなかったもの」
『そうなの。いなかったら知らなくて当然ね……って、えぇ!?』
そう。
あたしの婚約者は恋人ではない。
愛とか恋とか、男とか女とかそんなのをいつの間にか超えてしまったあたし達。
色々あり、つい先程結婚を決めた。そして、心変わりしないうちにさっさと親に連絡してしまおうと電話をしたのだ。
「ほら。大学からの友人で三輪貴史(みわたかし)って覚えてない?」
『ああ、確か同じ会社に入社した……』
「そうそう。彼と結婚することにしたの」
電話の向こうで困惑する母をよそに、三輪が片手を出し電話を代われと催促する。
「あーごめん。三輪が話したそうだから代わるね」
電話の向こうで慌てふためく母を無視して、三輪にスマホを渡す。