訳あり結婚に必要なもの

「もしもし。お電話変わりました。三輪貴史と申します」

三輪と母は大学の卒業式とかで顔を合わせているが、しっかり話すのはこれが初めてだと思う。それなのに三輪のこの堂々とした話しっぷり。普段のほほんとしているくせに、こういう所はしっかりしている。

「驚かせてしまって申し訳ございません。確かに僕は美和さんとお付き合いしておりません」

普段、あたしを名前で呼ばない三輪が名前で呼ぶから、何処かくすぐったい。
あたしの名前は「香澄 美和(かすみみわ)」で、三輪はいつもあたしのことを「香澄さん」と呼ぶ。「三輪」と「美和」が近くにいるから、大学以降、必然的にあたしは名字読みされることが多くなった。

「ですが僕は美和さんと結婚し、温かな家庭を築きたいと思っています。彼女を幸せにする自信があるんです」

そう告げる三輪の表情は穏やかだ。
三輪のほのぼのとした顔をあたしは結構気に入っている。

「近いうちに美和さんとともにご挨拶に伺います」

三輪はその後、一言二言、母と話したあと、あたしにスマホを渡した。

『とにかく、三輪くんを連れてうちに来てちょうだい。そして、ちゃんと説明して!』

母は叫ぶようにそう言うと、LINE電話は切れた。長い片想いの末に結ばれ夫婦となった母からしたら、娘の交際0日婚は簡単に受け入れられるものじゃないらしい。
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