訳あり結婚に必要なもの

「お母さん、困ってたね」

あたしがそう言うと目の前で座る三輪は苦笑いした。

「そりゃあ、交際0日だもんな。そこ別に言わなくてもよかったんじゃないか?」

確かに言わなければいいのかもね。あたし達に初対面のような余所余所しさはないし、たぶんお互いのことを本人以上に知っている。伊達に11年間も過ごしてきた訳じゃない。

「でも一生嘘つき続けるなんて嫌だもん」
「まぁ、それが香澄さんらしいけどさ」

あたしは嘘をついたり、隠し事が苦手だ。思ったことをなんでも口に出すし、隠していても表情ですぐにバレてしまう。そんなあたしのことをよく知る三輪は両親にありのままを伝えたあたしを咎めたりしなかった。

三輪と出会って11年。

忙しく厳しかった大学、大学院生活をともに支え合い、助け合った仲間。
一緒にテスト勉強したり、人間関係に悩んでは愚痴りあったり。
話し出せば止まらなくなり、気づけばかなりの時間が過ぎてしまっていることもしばしば。

就職先がまさかの一緒で、それからは優秀な同期として切磋琢磨する仲に。近頃はお互い"主任"として部下を纏める立場になった。

少しずつ変化したあたし達の立場。だけど、三輪への絶対的な信頼と尊敬はいつまでたっても変わらない。三輪のいい所も駄目な所もいっぱい言える。それこそ過去にいた三輪の元カノ達より何倍も。おんなじように三輪はあたしのことをよく知っている。三輪はあたしのかけがえのない人だ。

でもあたし達の間に恋愛感情はない。ドキドキもキュンとしたこともない。

そんなあたし達が、訳あって結婚することになりました。
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