訳あり結婚に必要なもの
関口塗料株式会社 。
そこが現在あたしと三輪が働いている会社だ。本社と全国幾つかの支社、そして本社横の『開発技術センター』通称『センター』を職場としており、センターではおよそ300人の社員が働いている。事務課10名以外は皆、技術部の人間だ。塗料の製造と新規商品の開発をしている。
「香澄さん今帰り?」
「うん。疲れたー!」
時刻は夜の10時。
センターのエレベーターに乗り込むと先客がいた。財布を持った三輪だ。
「いいな。僕の所はまだ検証実験が終わらない」
「夜食買いに行くの?」
「そう。下手したら泊まりになりそうだから、今のうちに腹ごしらえ」
センターには本社とは別に、コンビニと社員食堂がある。本社の定時と同じ夕方5時には閉店してしまうが、今日の三輪のように帰宅の目処が立たない人のために、カップ麺や菓子パンなどが売られた自販機が置いてあるのだ。
「あ、香澄さん。金曜日の会議の後はそのまま直帰?」
「うん、そのつもり」
新規商品の開発を行う研究員は10名ごとに4つのチーム分けられており、この4月からあたしと三輪はそれぞれのチームを取り仕切る主任を任されていた。主任になると毎週金曜日に本社で開かれる会議に出席して、開発研究の現状を報告しなければならない。この日ぐらいは現場の指示を主任補佐に任せて、あたしも三輪も直帰させてもらっていた。
「じゃあ、飲みにいかない?」
「行く行く!」
仕事が終わる時間が同じなら、2人で飲みに行くのは定番だ。三輪から誘ってくる時もあるし、鬱憤が溜まったあたしから誘う時もある。