かわいい戦争



驚いて黙り込んだ過激派なファンが、ビクッと肩を跳ね上がらせた。


血の気が引いていき、冷や汗がポタリと滴り落ちる。


見たことのないリタを恐れているせいではない。

いや、心内では恐れているのかもしれないが。




精神的に追い詰めているのは……


リタたちからは見えないように過激派なファンと向かい合って、温度のない眼光で静かに責め立てる、勇祐くんだ。




過激派なファンは、息もうまくできず、呼吸困難に陥る。


ニタリ、と勇祐くんの口角が不敵に歪むと。



彼らの恐怖心は限界を超え、台詞を吐く余裕もなく走り去っていった。




彼らの姿が見えなくなってから、リタがわたしたちに一礼をする。


その礼には、あらゆる意味が含まれているんだろう。


誰も何も言えなかった。



長いお辞儀が終わり、マネージャーらしき人に先導されつつ、まろんちゃんと共に会場内に戻っていった。



こちらには形容しがたい雰囲気が漂っていた。


ただ、居心地の悪さは多くの人が感じ取っていたようで、1人また1人と帰っていく。




それでも皆、口をそろえて言っていた。

いいライブだったね、と。




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