かわいい戦争



この宵闇では、いつもの正義も輝けない。




「独りじゃないよ」



璃汰の手がたどたどしくわたしのスカジャンを握った。


ポンポンと優しく背中を撫でる。



「わたしがいる。わたしは何があっても璃汰の味方だから」



こんなんで安心させられないのはわかってる。

わたしがいてもいなくてもきっと変わらない。


それでも、伝えたかった。


夜更けなのに呼び出したのは、たぶん独りでいたくなかったからだと思うから。



「わたしだけじゃないよ?神雷の皆も、家族だっているじゃん」


「……家族?」



嘲るような言い方で、思い出した。


そうだ。
璃汰の家族は……。



「海鈴だって知ってるでしょ?あんな奴、家族なんかじゃない」



あんな奴。

母親をそう呼んで、嫌っている。


母子家庭の璃汰にとって、母親が唯一の家族だけれど、璃汰の口から母親とのいい思い出を聞いたことはない。



「あいつが一番最初にあたしを不幸にしたのよ。あたしを、見捨てたの」



背中に回る璃汰の腕が、ぐっと力んだ。



「海鈴だって、あいつが嫌いでしょ……?」



わたしには何も言えない。


だって、璃汰の話が本当かどうかすら、わからない。



――『秘密を知らないから、あなたは仮初めの幸せに浸ってられるのよ』



璃汰の母親の()

わたしはまだ知っただけに過ぎないんだ。



「海鈴はあたしを独りにしないで。あなたはあたしのものよ」



首元が寂しい。


急いで家を出てきたから、いつもは付けてるチョーカーがないせいだ。

あれは璃汰のものである証なのに。



「うん。わたしは、璃汰のものだよ」



璃汰が必要としなくなるまで、わたしはずっと璃汰の味方。


“あの日”そう約束した。




璃汰が泣き止んでも、しばらくの間2人一緒にいた。


肌寒い夜、1ミリの隙間もなく手を握って。



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