かわいい戦争
あんまりヒールに慣れてなくて、グラグラする。
バランスを保つのに神経をすり減らしながら、衣装部屋をあとにした。
リタはヒールを履いて踊ってたんだよね……。
改めてアイドルの大変さを痛感させられるよ。
何度かこけそうになりながらも、階段のところまでなんとか移動できた。
待って。か、階段って難易度高くない!?
危険極まりないよ、これ!
手すりに掴まるどころかへばりつき、へっぴり腰で階段を1段下りてみる。
直後
「そこの綺麗なお嬢さん」
差し伸べられた、大きな手。
「よければ俺にエスコートさせてくれませんか?」
2段下からわたしを見上げる未來くんがあまりにも紳士的で、制服姿なのにとても様になってる。
あ、あれ?おかしいな。
未來くんの後ろに薔薇の花が咲き乱れて……。
慌てて目をこする。
あ、錯覚だった。よかった。
「……お、お願い、します」
ぎこちなく手を重ねる。
強く引き寄せるんじゃなくて、優しく添えるような繋ぎ方。
不安定な足元を気遣って、支えになってくれてる。
「ドレス姿もかわいいね。マスクも取ってるし、なんかしんせ~ん」
相も変わらず喋り方は緩く、すぐ隣の笑顔は綺麗なだけ。
エスコートするこの手は、ひどく温かいのに。