かわいい戦争
幸珀さんは座り直し、運転体制を整える。
慣れた手つきでエンジンをかけた。
「さてと。そろそろ伝説作りに出発しようか」
ハンドルを握る左手の薬指に付けた、プラチナの指輪がキラリと反射した。
アクセルを踏むと、車が動き出す。
「……伝説……」
ポツリ。
独白がアイボリーのドレスを濁らす。
「こんな、僕でも……?」
こんな。
たった3文字に、どれだけの自己否定が含まれているんだろう。
卑屈。
自虐。
苦悩。
無理はしてないかもしれないけれど、今でもたくさん葛藤しているのに一緒に来てくれた。
心優しいひつじくんを、ひつじくん自身が否定するなら。
「こんな、じゃないよ」
わたしが、肯定する。
「伝説はよくわからないけど、何かを達成することを伝説と呼ぶなら、ひつじくんならきっとできる」
「こんな格好の、弱い僕でも?」
「だから『こんな』なんて言わないで!格好なんか関係ない!弱くもない!」
次言ったら怒るからね?
そっとひつじくんの手を取り、両の手のひらにくるむ。
ぎゅっと握って、あっためる。
大丈夫だよ、って。
「考えを変えて、わたしに付き添ってくれるひつじくんは、強くて優しい心を持ってるよ。わたしが保証する!」