かわいい戦争
「わたしもよくお世話になってるよ、津上病院。あと桜彩学園と、北校と西校も。心理カウンセラーとして月に何度か伺ってる」
赤信号で一時停止させた幸珀さんが、ミラー越しにひつじくんに形式的な挨拶をした。
ひつじくんもつられてペコリと頭を下げる。
幸珀さん、北校にも来たことがあったんだ。
知らなかったなぁ。
「前に仕事で津上病院に行ったとき、わたしがひつじくんと知り合いだって院長が知ったら、ひつじくんの自慢話を聞かされたよ。家族思いで、一人息子を大事に愛してて……だからこそ期待してた。聞いてるこっちが重たく感じるくらい」
「そうなんです。両親は……特に父は、昔から、僕に期待してた。いい子に育って、いい後継者になってくれること」
愛するがゆえ。
それはときに原動力に、ときに枷になる。
愛したって、愛されたって、全く同じものを返せるとは限らない。
一方通行になることだってある。
愛って、難しい。
「僕は、物心ついたときから、かわいいものが好きで、かわいい服を着るのも好きで。 だけど、かわいいものに触れる度に、怒られた。僕に期待する人は皆、僕に、男らしさを求めてた。女じゃないんだから、って。正しいことをしろ、って」
そっか。
昔から“かわいい”は、ひつじくんのそばにあって。
だけど、誰にも許してもらえなかったんだ。