かわいい戦争
『好きになっちゃ、いけない』
『僕は、男だから。“津上ひつじ”だから』
『僕に、“かわいい”は、要らない』
好きなものを嫌いになって、期待に応えようとした。
愛を、返したかった。
ひつじくんは、とても優しいから。
「男らしくなるために、努力はした。サッカー、野球、バスケ、剣道、柔道、空手、筋トレ、かっこいい格好……全部試したけど、男らしさは、わからなかった」
信号が青に移り変わった。
ネオンの光に誘われるがまま、エンジン音を鳴らす。
「でも、ある日……ちょうど10歳くらい、だったかな。期待に耐えきれなくなって、家を飛び出したことがあった。来た道がわからなくて、迷子になってた僕に、当時の神雷副総長が、『危ねぇから俺らんとこ来いよ』って、たまり場に連れて行ってくれた」
「ひつじって今17だっけ?」
「はい」
「じゃあ7年前か。その頃の神雷っていったら……13代?」
「そうです。剛さんが、副総長のときです」
天兒さんは17代目総長だから、4代前の神雷ってことになる。
幸珀さんは昔の神雷とも面識があるかな。
もしかしたら幸珀さんがいた神雷が13代目なのかもしれない。
「あいつがひつじを、ねぇ……」
ふっ、と失笑した幸珀さんは、からかいたそうに右目だけを細めた。
あ……そっくり。
お店の常連さんの懐かしそうで朗らかな横顔と。