かわいい戦争
「それから、神雷のたまり場に出入りするようになって、気づけば神雷の一員になってた。ここでなら、男らしさを、見つけられる気がした。かわいいものから、逃げられる気がしたんだ」
気がした、だけ。
虚言はいくらでも吐けるけれど、気持ちごと捨てるのは大変で。
ずっと苦しんでた。
ひつじくんはただ“かわいい”を好きになっただけなのに。
「力は強くなったけど、男らしさは未だに、わからない。かわいいものを、嫌いにはなれてない。親の期待は、今も重たくて、生きづらい」
だけど、と。
続けて話すひつじくんと、目が合った。
「カイリーが、言ってくれたから。『誰だってかわいくなっていいし、誰でもかわいくなれる』『かわいくなって、いいんだよ』『かわいくなる手伝いをしてくれて、ありがとうね』そう、言ってくれたから……だから、僕もかわいくなっていいのかな、って思えた。初めて、許された気がした。かわいいものが好きな自分を、少しは、好きになれた」
ひつじくんの手を握ってたはずのわたしの両手の上に、いつの間にかひつじくんの両手が重なっていた。
形勢逆転。
温められてるのは、わたしのほう。
ありがとうと、伝えるように。
「無理に、“かわいい”を嫌いにならなくて、いいんだよね……?」
「うん、いいんだよ。好きなものは、好きなままで。言ったでしょう?かわいくなっちゃいけない人も、“かわいい”を好きになっちゃいけない人もいない、って」
たとえ誰も許さなくても、わたしが許すよ。
わたしが、味方になる。