かわいい戦争
“かわいい”は、悲しませるものでも苦しませるものでもない。
素敵で幸せな魔法なんだよ。
「人それぞれ正しさも正義も違う。理解はできても、受け入れてもらえないかもしれない。だとしても、わかってもらうためには証明するしかない。今の自分を貫きたいなら、ちゃんとぶつかりな。親の言う通りにするだけのいい子ちゃんなんて、人形も同然。あんたは言葉を話せて、体を動かせる。本物の“いい子”は、自分の意思を伝えられる子だよ。一回反対されても食い下がって何回も伝えるんだよ?いい?」
さすが先輩の助言は重みが違う。
ひつじくんの表情が凛々しくなった。
「期待に応えつつ、生きやすくしたいんでしょ?」
「……っ、はい」
「自分の願いを全て叶えるには相当の努力と根性が必要だけど、神雷に居る時点であんたも”悪い子”だもんね。“悪い子”らしく自分勝手に突っ走って、“いい子”らしく本音で訴えればなんとかなるよ」
「“悪い子”と、“いい子”って、矛盾してる……」
「両面性があるってことでいいでしょ」
急に返答が適当に……。
それまですごくいいことを言ってたのに。
「とにかく、相手にこっちの思いを伝えるのに最適なのは、言葉より行動。今そうやってかわいい格好して、友達のために行動してるみたいにね」
キキィ!とブレーキがかかった。
車窓の向こう側に、きらびやかな世界が広がる。
深い茜色に染まる、繁華街だ。
「自分たちらしく、頑張って」
幸珀さんは後ろを振り向いて、ガッツポーズをする。
男の子らしく、女の子らしく、“いい子”らしく、“悪い子”らしく。
そうじゃなくて。
一番大事なのは、自分らしさ。
「頑張って、きます」
「ありがとうございます、幸珀さん!行ってきます!」