かわいい戦争
璃汰から聞いてた人とは、別人みたい。
もっと自分勝手で、いろんな大切なものをないがしろにする人だと思ってた。
でも、わたしの横にいるリンカさんは、誰に対しても気配りができる寛大な人。
この人が本当に璃汰を見捨てたの?
「それに、謝るのはわたしにじゃなくお客様にでしょ?」
「あっ、す、すみません!!」
お客さんに体を向け、深く頭を下げる。
「僕はいいよ!それよりリンカちゃん、本当に大丈夫?」
「ドレスが汚れただけですので。不快でしたら着替えてまいりますが」
「不快なんてそんな!……確かに、ドレスの汚れだけじゃ、リンカちゃんの美しさは陰らないな」
「あらやだ。褒めるのがお上手ですね」
すごい……。
わたしのフォローとお客さんへの対応を一遍にやり遂げてしまった。
「改めてお酒作り直しますね」
リンカさんはそう言うと、わたしとひつじくんを順に一瞥した。
見て覚えろという合図だ。
「ロックで氷は3つ、でしたよね?」
もしかしてお客さん1人1人の好みを覚えているのだろうか。
氷を入れたグラスをマドラーでゆっくり回す。
お酒を注いだら、またマドラーで混ぜた。
大がかりなショーを観ているわけではないのに、リンカさんの流れるような所作に釘付けになる。
なるほど。先ほどは先にお酒を入れようとしたから、ストップをかけたんだ。ロックのときは氷が最初なんだ。