かわいい戦争
カラン、コロン。
氷を躍らせながら、水面が揺れる。
左回しに動かしていたマドラーを置くと、お客さんのコースターの上にグラスを出した。
「どうぞ」
「うん、美味しい。いつもの味だ。リンカちゃんもすっかり板についたね」
「いえ、まだまだですよ」
「そう謙遜しないで。さっきも新人をフォローしてたじゃないか。ベテランになったもんだ。リンカちゃんが新人だった頃が懐かしいよ」
それでもゆるく頭を振るリンカさんに、お客さんは困ったように微笑む。
「わたしも数えきれないくらい失敗してきたので」
「……そうだな。ナンバー1になるまで大変だったよな」
「……はい。大きな失敗をしてたくさん叱られて、指名してくださった方も離れていって。だけどやっと……こんなに時間を費やしてやっと、お店の看板を背負うことができました」
「ずっとリンカちゃんを応援し続けてよかったよ。僕の目に狂いはなかった」
お客さんは大げさなくらい陽気に笑うけれど、リンカさんの顔色は晴れない。
どうしてそんな憂いた顔をするんだろう。
――『秘密を知らないから、あなたは仮初めの幸せに浸ってられるのよ』
リンカさんの言う『失敗』って、もしかして……。
「あの子は、元気?」
「……ええ、たぶん」
「たぶん?」
「しばらく顔を見れてないんです。お互い忙しくて」