かわいい戦争


カラン、コロン。

氷を躍らせながら、水面が揺れる。


左回しに動かしていたマドラーを置くと、お客さんのコースターの上にグラスを出した。




「どうぞ」


「うん、美味しい。いつもの味だ。リンカちゃんもすっかり板についたね」


「いえ、まだまだですよ」


「そう謙遜しないで。さっきも新人をフォローしてたじゃないか。ベテランになったもんだ。リンカちゃんが新人だった頃が懐かしいよ」




それでもゆるく頭を振るリンカさんに、お客さんは困ったように微笑む。




「わたしも数えきれないくらい失敗してきたので」


「……そうだな。ナンバー1になるまで大変だったよな」


「……はい。大きな失敗をしてたくさん叱られて、指名してくださった方も離れていって。だけどやっと……こんなに時間を費やしてやっと、お店の看板を背負うことができました」


「ずっとリンカちゃんを応援し続けてよかったよ。僕の目に狂いはなかった」




お客さんは大げさなくらい陽気に笑うけれど、リンカさんの顔色は晴れない。


どうしてそんな憂いた顔をするんだろう。



――『秘密を知らないから、あなたは仮初めの幸せに浸ってられるのよ』



リンカさんの言う『失敗』って、もしかして……。




「あの子は、元気?」


「……ええ、たぶん」


「たぶん?」


「しばらく顔を見れてないんです。お互い忙しくて」



< 169 / 356 >

この作品をシェア

pagetop