かわいい戦争
『あの子』は間違いなく璃汰のことだ。
このお客さんは知ってるんだ。
リンカさんが新人の頃からのお客さんらしいから、知っててもおかしくない。
リンカさんの『失敗』も、『あの子』の存在も。
チクリと痛んだ心臓が、ドクンと鈍く高鳴った。
わたしが苦しんでもどうしようもないのに。
――パリン……!
突然、グラスの割れる音が響いた。
2つ前のテーブルからだ。
周りがざわざわし始める。
「お前じゃダメだな。俺をもてなすに値しねぇ」
「龍司さん、今日は俺の金なんすから気をつけてくださいよ」
「あー、わりーな沖田」
「……もしかしてもう酔ってます?」
首に龍の入れ墨を彫った龍司という男性と、茶髪の沖田という男性。
2人の男性客のテーブルを担当していた2人のキャバ嬢は、髪もドレスも濡れていた。
グラスに入っていたお酒をぶちまけた挙句にグラスも割ったんだ。
察するのに大して時間はかからなかった。
「龍司さんがお気に召さないみたいなんで、違う人と代わってもらえます?できれば早急に」
「ナンバー1出せよ!リンカだっけ?そいつと代われ!」
2人の男性客は上から目線の態度のまま、怯えるキャバ嬢を見下していた。