かわいい戦争



『あの子』は間違いなく璃汰のことだ。


このお客さんは知ってるんだ。

リンカさんが新人の頃からのお客さんらしいから、知っててもおかしくない。



リンカさんの『失敗』も、『あの子』の存在も。




チクリと痛んだ心臓が、ドクンと鈍く高鳴った。


わたしが苦しんでもどうしようもないのに。




――パリン……!



突然、グラスの割れる音が響いた。

2つ前のテーブルからだ。


周りがざわざわし始める。




「お前じゃダメだな。俺をもてなすに値しねぇ」


龍司(りゅうじ)さん、今日は俺の金なんすから気をつけてくださいよ」


「あー、わりーな沖田」


「……もしかしてもう酔ってます?」




首に龍の入れ墨を彫った龍司という男性と、茶髪の沖田という男性。


2人の男性客のテーブルを担当していた2人のキャバ嬢は、髪もドレスも濡れていた。


グラスに入っていたお酒をぶちまけた挙句にグラスも割ったんだ。

察するのに大して時間はかからなかった。



「龍司さんがお気に召さないみたいなんで、違う人と代わってもらえます?できれば早急に」


「ナンバー1出せよ!リンカだっけ?そいつと代われ!」



2人の男性客は上から目線の態度のまま、怯えるキャバ嬢を見下していた。


< 170 / 356 >

この作品をシェア

pagetop