かわいい戦争
どうして、ここにいるの?
「海鈴ちゃん、大丈夫?」
手を濡らすお酒をペロリと舐め、顔だけ振り返った未來くんはいつも通り飄々としているのかと思ったけれど。
へらりとほころんだ笑みには、焦りと不安があふれていた。
「大丈夫じゃないのは、未來くんのほうだよ……!」
ウェイターの格好をした体は、全身お酒まみれ。
わたしを庇ってボトルに当てた左腕は、ガラスが刺さって血だらけ。
傷口にお酒が滲みて、もっと痛いよね?
「これくらいヘーキだよ。俺より海鈴ちゃんは?……酒はあんまりかかってないし、ガラスも破片がちょっと服についちゃってるけど……うん、大丈夫そうだね~。メイクも取れてないみたいだし、かわいい顔に傷がつかなくてよかった」
よくない。
何も、よくないよ。
メイクなんかどうだっていい。
「未來くんが傷を負ったのに、大丈夫なわけないよ……っ」
「海鈴ちゃん……」
持っていたハンカチを傷口に巻き付ける。
「……ごめんね、痛かったよね」
ハンカチはすぐ赤く染まった。
いたいのいたいのとんでけー
って唱えたら、本当にわたしのところに飛んでくればいいのにね。