かわいい戦争
「い、行かない!」
わたしだってバカじゃないんだから。
自惚れないよ。
自分が特別だなんて思っちゃいけない。
未來くんは誰にでも優しいって知ってる。
「お店の手伝いあるから。じゃ、じゃあね!」
赤らんだ耳を髪で隠しながら、急いで靴を履き替える。
一目散に走って逃げた。
「……かわいいなあ」
未來くんの口の端がほころんでいく。
校門を曲がろうとしてるわたしには、その呟きは到底聞き取れない。
だが、ひつじくんはばっちり拾い取ったらしい。
「ライライ、本気?」
「何が~?」
「……何って、言ってほしいの?」
「ん~ん、聞いただけ」
「彼女、いなかったっけ?」
「本命はいないよ?」
「それ以外は?」
「今はいない。ほら見て、しょーこ」
「証拠?」
怪しむひつじくんにスマホの画面を見せつける。
画面には連絡先一覧が表示されていた。
「女の子の名前、ない……」
「つーか連絡先ひとつもねぇじゃねーか」
「僕らのも、消したの?」
「1個ずつ消すのダルくてさ~。設定丸ごとリセットしちった」
ちゃっかり盗み見てた天兒さんまで呆れてる。
「だから連絡つかなかったんだ……」
「俺に何か連絡してたの?」
「ライライ個人にじゃなくて、グループに。ちょっと気になるニュースがあって……」
ざわり、と不穏な風に金髪がなびく。
鮮やかな夕焼けを分厚い雲が覆っていく様子は、まさにひつじくんの心境そのものだった。