かわいい戦争
手元のエコバッグの感触が、唐突に鮮明に浮かび上がってくる。
あ、そうだった。
買い出しに行った帰りだった。
早く帰って冷やさないと、食材が傷んでしまう。
「で、では誤解も解けたことだし、失礼します」
ぺこりと軽くお辞儀をして、そそくさと洋館から飛び出した。
後ろで何か謝罪のような声が聞こえてきたけれど、振り返って確かめる余裕など持ち合わせていなかった。
あの洋館……。
何度か立ち寄ったことはあっても、さすがにそこにいる人の顔をいちいち覚えてないし、あっちもわたしが来たことあることになんか気づくはずもないだろうし。
その程度の関係でいい。
深く関わる必要ない。
たとえ璃汰が、あの洋館に居座る一人だとしても。
あの子は、あの子。
わたしは、わたしだ。
――なんてのんきに考え、ようやく自由になれた解放感にうつつを抜かしていたのに。
まさか明日も邂逅することになるとは、想像すらしていなかった。