かわいい戦争
耳元で名前を囁かれたら、もう、どうしたらいいかわかんなくなる。
「やめてよ!」
ドンッと強く胸板を押したつもりが、さほど力が入らなかった。
それでも空いてしまった微妙な距離感に、罪悪感が積もっていく。
未来くんの思いやりを拒絶したわたしは、やっぱり優しくないね。
こんなにわがままじゃ、誰も守れない。
気づいたら誰かが傷ついてる。
「こ、こういうことは……」
やめて。
これ以上、優しくしないで。
璃汰を外に連れ出そうとした発案者のわたしを、未來くんも責めていいんだよ。
抱きしめたり慰めたりするのは、好きな人にしてあげて。
わたしを甘やかさないで。
すがってしまうから。
「やめないよ」
もう一度、抱き寄せられた。
先ほどより弱々しく、それでいて熱く。
押しても拒んでも、腕はちっとも緩んでくれない。
「好きな子が弱ってるのに、慰めちゃいけないの?」
耳に直接流れ込んできた想いを、うまく理解できない。
呑み込めないどころか、真っ白な思考を埋め尽くしていく。
未来くんの、好きな子?
誰?
……わたし?
「海鈴ちゃんのことが好きだから、放っておけないし、自分を責めてほしくない」
「……す、き?未來くんが、わたしを?」
「うん、そうだよ。慰めたいと思うのも、抱きしめたいのも海鈴ちゃんだからだよ」
「っ、」
「もっと甘えてよ。できれば俺にだけ」