かわいい戦争
ふしぎな偶然
「ただいまー」
繁華街のとあるお店。
ガラッとおんぼろの引き戸を開ければ、むわっとした熱気と美味しそうな匂いが漂う。
「あ、おかえり、海鈴」
「着替えたら手伝うね」
カウンターの奥で調理しているお父さんに一言告げてから、お店の奥の扉を開ける。
扉の先にある階段を上ったら、そこはお店ではなくわたしの家。
「あら、おかえりなさい」
「ただいま、お母さん」
リビングのソファーには、お母さんが横になっていた。
上半身を起こそうとしていたから、慌てて「いいよいいよ、寝てて」とまた寝かせる。
わたしのお母さんは、体が弱く、たまに体調を崩してしまう。
だからお母さんの代わりに、わたしがお店の手伝いをしている。
友達と遊ぶより、家族のために何かしているほうがとても嬉しいし、楽しい。
「いつもごめんね、海鈴」
「もう、やめてよ。わたしが好きでしてることなんだから」
謝ってほしくなくて。
悲しんでほしくなくて。
少しでも安心してもらえるように、わたしの一番の笑顔を見せた。
といってもマスクで全然見えないんだけど。